デュタステリドのその他の副作用:精神神経系の副作用
デュタステリド(5α還元酵素阻害薬)で添付文書に記載されている「精神神経系の副作用:頭痛、抑うつ気分、浮動性めまい、味覚異常」について、医学的な意味・どのように起こるか・臨床上の注意点をわかりやすく整理したものです。
◆ 総論:なぜ精神神経系に影響するのか?
デュタステリドは、テストステロン→DHT(ジヒドロテストステロン)への変換を抑える薬です。主作用は前立腺肥大症やAGA(男性型脱毛症)ですが、体内のホルモンバランスや神経伝達物質、神経ステロイドに二次的影響を与える可能性があり、これが精神・神経症状に関係すると考えられています。
特に近年は、DHT低下と脳内神経ステロイド(アロプレグナノロン等)の関係や、セロトニン・GABAなどの神経系への影響が研究されており、デュタステリドおよびフィナステリドでまれに精神症状が報告されています(詳細は臨床研究で議論中)。
1) 【頭痛(Headache)】
● 何が起きている?
デュタステリド服用後に起きる軽度〜中等度の頭痛です。
多くは一時的で自然に改善し、重大な問題になることは稀です。
● 原因として考えられるもの
- ホルモンバランス変化による自律神経の一時的乱れ
- 血管の拡張・収縮の変化
- ストレス・不眠(副作用としての気分変化に関連)
- 持病の頭痛が一時的に悪化
● 病院に行くべきサイン
- 強い頭痛が持続する
- 片麻痺、しびれ、視覚症状を伴う頭痛
- 発熱を伴う場合
→ 「通常の副作用」から外れます。
2) 【抑うつ気分(Depressed mood)】
● 何が起きている?
気持ちが沈む・意欲低下・不安感・イライラなどの精神症状です。
添付文書では「その他の副作用」として記載されており、頻度は高くありませんが重要な副作用の一つです。
● なぜ起きる可能性があるのか(医学的背景)
- 5α還元酵素阻害により神経ステロイド(アロプレグナノロン)が減少
→ 海馬や扁桃体で不安・抑うつ調整に関与 - 性機能低下が心理的に影響(性欲低下、EDなどの副作用と関連)
- ホルモン変化への個体差
→ 特に過去にうつ病・不安障害の既往がある場合は注意
● 注意点
- 気分低下が続く、生活に支障が出る
→ 服薬中止を含め医師と相談 - 自殺念慮・希死念慮がある場合は緊急対応
(実際はごく稀ですが、「見逃してはいけない副作用」です)
3) 【浮動性めまい(Dizziness)】
● 何が起きている?
いわゆるふらつきや頭がふわふわする感覚です。
典型的な回転性めまい(グルグル回る)はあまり多くなく、立ち上がり時のふらつきなどが多いです。
● なぜ起こる?
- 自律神経のバランス変化
- 血圧変動(軽度の低血圧)
- 不安や緊張による過換気
- 血流の変化(ホルモン影響の間接効果)
● 気をつけるポイント
- 立ち上がる時にふらつく → 転倒注意
- 持続する場合は検査(血圧、貧血、他の疾患の除外)
- めまい+神経症状(しびれ、麻痺)は緊急受診
4) 【味覚異常(Dysgeusia)】
● 何が起きている?
味が薄い・金属味がする・味が変など、味覚の変化が起こることがあります。
頻度は低く、重症化は稀です。
● 原因の可能性
正確な機序は不明ですが:
- ホルモン変化が味覚神経に影響
- 唾液分泌や口腔環境の変化
- 中枢神経(味覚中枢)への影響
味覚異常は薬剤による一時的な神経影響で数週間以内に改善することが多いです。
● 原因鑑別
味覚異常は他の原因も多いので注意:
- 亜鉛不足
- コロナ感染後遺症
- 口腔疾患
- 他薬との併用(抗生剤、降圧薬など)
◆ まとめ:それぞれの危険度と特徴
| 副作用 | 主な症状 | 重症度 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 頭痛 | ズキズキ、重い感じ | 低〜中 | 多くは自然軽快 |
| 抑うつ気分 | 気分低下、不安、無気力 | 中〜高 | 経過が重要、早期相談 |
| 浮動性めまい | ふらつき、立ちくらみ | 中 | 転倒注意、持続時受診 |
| 味覚異常 | 金属味、味が変 | 低 | 他の原因も鑑別 |
◆ どんな時に中止・受診すべき?
以下の状況ではすぐに医師に相談してください:
中止・相談の目安
- 抑うつが2週間以上続く
- 生活に支障がある(仕事、家庭、人間関係)
- 不安感・焦燥感が強い
- 急激に気分が落ち込む
- めまいで転倒、歩行が不安定
- 頭痛が強く、発熱・麻痺など他の症状がある
- 味覚異常が続き、食事ができない
緊急受診
- 自殺念慮・希死念慮がある
- 意識障害や激しいめまい
- 神経症状(麻痺、言語障害)
◆ 客観的に大事な点
- デュタステリドによる精神症状は頻度は低いが重要という扱い
- 特に抑うつ気分は見逃してはいけない副作用
- 多くの人は何も起こらず安全に服用できる
- 副作用が出ても中止で改善するケースが多い







