DHTと男性機能の関係

DHT(ジヒドロテストステロン)と男性機能の関係を、医学的な観点からわかりやすく整理します。ポイントは「DHTが男性機能に必要な部分」と「過剰・不足で起こる影響」を両方理解することです。


■ DHTとは何か

DHT(ジヒドロテストステロン)は、テストステロンが5α還元酵素によって変換されてできる、より強力な男性ホルモンです。

  • 男性ホルモン作用の強さ
    DHT ≫ テストステロン
  • 血中濃度はテストステロンの約1/10以下
  • 作用は強いが、性的機能に直接関係するのは主にテストステロン

■ DHTの働き

① 胎児〜思春期の「男性化」に重要

DHTは「男性らしい身体の特徴」を作る中心的なホルモンです。

特に胎児期〜思春期で重要:

  • 外性器(陰茎、陰嚢)の発達
  • 前立腺の発達
  • 体毛・陰毛の発生
  • 声変わりの誘導
  • 皮脂分泌亢進

→この時期はDHTがなければ男性の生殖器は正常に形成されないとされています。


■ DHTと成人男性の機能

成人になってからは、役割がやや変わります。

● テストステロンが中心

勃起や性欲、筋力、気分などは、主にテストステロンが担います。

  • 性欲:テストステロン > DHT
  • 勃起:テストステロン(脳、中枢作用)
  • 陰茎海綿体NO生成:テストステロン
  • 射精機能:テストステロン+自律神経
  • 精子産生:FSH/LH、テストステロン

→「男性機能=DHT」と考えるのは誤りです。

● DHTは「補助的役割」

とはいえ成人でも一定の貢献があります:

  • 性欲の維持に関与(脳のアンドロゲン受容体刺激)
  • 陰茎組織の維持
  • 勃起組織の構造維持
  • NOシグナルのサポート作用

ただしDHT単体では勃起は起こらず、中枢刺激、血流、神経が必要です。


■ DHTが過剰な場合

DHTは強力な男性ホルモンであるため、「多すぎるとデメリット」が出やすいホルモンでもあります。

高DHT状態で起こりやすい:

  • AGA(男性型脱毛症)
  • ニキビ、脂性肌
  • 前立腺肥大症(BPH)
  • 前立腺癌の進展に影響(直接的原因ではない)

ただし「DHTが多いほど性機能は強い」というわけではありません。
むしろAGAの男性で性欲が強いとは限らず、血流や心理因子が主です。


■ DHTが低い場合

DHTが低すぎる場合、以下が影響します:

● 胎児・思春期

  • 外性器の発育不全(重症:男性化不全)
  • 思春期の特徴が現れにくい

※ここは先天性問題(5α還元酵素欠損症など)

● 成人男性

成人で「DHTだけ低い」状態はあまりありませんが、
意図的にDHTを低下させる薬(AGA治療薬など)があります。

例:フィナステリド、デュタステリド(5α還元酵素阻害薬)

臨床的に:

  • DHT低下→性欲低下が一部で報告あり
  • 勃起障害は稀(血流が主因のため)
  • 精子数・精液量に影響する可能性(個人差大)

● 注意点

デュタステリド=DHTを強く抑える
フィナステリド=DHT抑制はデュタステリドより弱い

→抑制が強いほど副作用の可能性は増えるが、実際は個人差。


■ DHTとED(勃起障害)

EDとの関係は次の通り:

● DHT単独はEDの原因になりにくい

EDの大きな原因は血流と神経です。

  • 動脈硬化
  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 喫煙、肥満
  • ストレス、睡眠障害

→これらに比べると、DHTの影響は非常に小さい。

● テストステロン不足=性欲低下→結果としてEDに見える

テストステロンが低下すると、
「そもそも性的欲求が起きない」→EDと誤解されることがあります。

DHTではなくT(テストステロン)が重要


■ まとめ

シンプルに整理すると以下:

◆結論

男性機能(性欲・勃起・射精)を支える中心はテストステロンであり、DHTは補助的役割が多い。

◆役割の違い

機能 主体 DHTの役割
性欲 テストステロン 脳のアンドロゲン刺激
勃起 血流・NO・自律神経 陰茎組織の維持
射精 神経系 ほぼ関与なし
男性器発達 DHT 主役
AGA DHT 主原因

■ よくある誤解

「DHTが高い=男らしい」

髪が抜けやすくなるだけで、性機能が高いとは限りません。

「DHTを抑えるとEDになる」

一般的にはEDは起こりにくい
起きるとすれば性欲低下が中心で、勃起機能そのものは保たれることが多い。

「DHTを上げれば性欲が上がる」

テストステロンが低い状態では効果ありません。
むしろ、全身状態・心理・血流が重要です。


■ ED改善の優先順位

  1. 生活習慣(睡眠、運動、体重)
  2. 血管ケア(血圧、脂質、糖尿)
  3. ストレス・メンタル
  4. テストステロン値
  5. 補助的にDHT

→DHTは「最後の要素」に近い位置づけ。


■ より専門的ポイント

  • 中枢性性欲:テストステロン→DHT変換作用が脳内で関与
  • 陰茎では、テストステロンが局所でDHTへ変換され、受容体刺激を高める
    ただしNO経路の主因はT
  • 前立腺:DHTが重要な成長因子
  • AGA:毛包のミニチュア化を促進