デュタステリドのその他の副作用:皮膚(脱毛症・多毛症)

デュタステリドの「その他の副作用:皮膚(脱毛症・多毛症)」について、医学的な背景を含めて詳しく解説します。
デュタステリドは「毛を増やす薬」というイメージが強いですが、作用が複雑なため、部位によっては脱毛・多毛の両方が起こり得ることがポイントです。


■ 前提となる作用メカニズム

デュタステリドは 5α還元酵素(Ⅰ型・Ⅱ型)を阻害し、DHT(ジヒドロテストステロン)を低下させます。

DHTは、毛包(毛根)に対して:

  • 頭皮では脱毛を促進する作用(男性型脱毛症)
  • 体毛では毛を太く濃くする作用(ヒゲ、胸毛、陰毛など)

という「部位によって逆方向の作用」を持つため、
DHTを抑制すると頭は増えるのに、体毛は減るという現象が起こり得ます。


【副作用①】脱毛症(主に体毛脱落)

◆ 内容

デュタステリド服用中に、

  • 手足の毛が薄くなる
  • 胸毛、腹毛が少なくなる
  • ヒゲが伸びにくくなる
  • すね毛が減る
    などの「体毛の脱毛(脱落)」が報告されています。

添付文書では「脱毛症(主に体毛脱落)」と記載されますが、
医学的には 「体毛の減少」=体毛のミニチュア化 と考えられます。


◆ メカニズム

ポイントは DHTの役割の違い

部位 DHTの作用
前頭部・頭頂部の毛包 DHTでミニチュア化が進む → 脱毛
ヒゲ・胸毛・すね毛 DHTで毛が太く濃くなる → 多毛

デュタステリドによりDHTが低下すると:

  • 頭皮:DHTが減る → 逆にミニチュア化が止まる → 発毛・維持
  • 体毛:DHTが減る → 毛が細くなる → 抜ける・薄くなる

つまり 「頭は増えるが体毛は減る」という現象になります。


◆ 注意点

体毛脱落は医学的に「有害」というより、美容的にはむしろ好ましい副作用と考える人もいます。
ただし患者説明としては説明義務(薬剤説明上)があるため、添付文書に記載されています。


◆ 起こる頻度

  • 低頻度(多くは軽度)
  • 発症時期は服用開始後1〜3ヶ月が多い
  • 自然に気づかない人も多い

大規模試験でもほとんど問題視されていません。


【副作用②】多毛症(hypertrichosis)

◆ 内容

一方で「多毛症」として、

  • 毛が濃くなる
  • 毛が増える
    と報告されることがあります。

「体毛は減るのになぜ?」と思いますが、以下の理由が考えられます。


◆ メカニズム(多毛が起きる理由)

① ホルモンバランスの代償反応

DHTが低下すると、

  • テストステロン(T)
  • デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)

などの他のアンドロゲンの相対的濃度が変化します。

その結果、一部の毛包で異常刺激が起きる可能性があります。


② 個体差によるアンドロゲン感受性

毛包には アンドロゲン受容体の多い・少ないなどの個体差があり、
ある人は「体毛が減る」
ある人は「一部が逆に増える」
という差が生じます。


③ テストステロンとDHTは同じではない

DHTが減ってもテストステロンは維持されます。
毛包は「DHTだけでなくテストステロンでも反応する」ため、一部で「濃くなったように見える」パターンがあります。


④ 発毛の回復による誤認

デュタステリド服用により健康全体が改善すると、

  • 栄養状態改善
  • ストレス改善
    により 本来の毛量に戻ることがあります。
    この場合「増えた」と感じますが、医学的には「正常化」です。

多毛症は珍しい副作用

臨床的には、

  • 「脱毛(体毛減少)」は多くの人であり得る
  • 「多毛症」は非常に少ない

です。

添付文書に載る理由は:

  • 「頻度不明でも報告がある」=副作用として記載義務
  • 体質により起こる可能性はゼロではない

という背景があります。


実例でわかりやすく解説

● 一般的なパターン

  • 頭髪:増える
  • ひげ:薄くなる、伸びが遅い
  • 体毛(腹毛、胸毛、すね毛):薄くなる
  • 手足の毛:減る

約90%以上はこの反応です。


● 稀なパターン(多毛症)

  • 頭髪:増える
  • 背中や肩に毛が増える
  • 前腕の毛が濃くなる
  • 眉毛・もみあげが濃くなる

などの「局所的な多毛」が起こる可能性があります。
これは体質、遺伝、ホルモン受容体の感受性によります。


総括(結論)

● 脱毛症(体毛脱落)

  • デュタステリドの正常な作用の延長
  • 「DHT低下 → 頭髪は増える、体毛は減る」
  • 多くは軽度で害はない

● 多毛症

  • 非常に稀
  • 個体差やホルモン受容体の感受性の影響
  • 一部の毛包が「テストステロン優位」に反応して増える可能性

患者説明用のシンプルな言い方

患者向けに簡単に説明すると:

デュタステリドは男性ホルモンの一種であるDHTを下げる薬です。
DHTは「頭の毛を薄くする一方で体毛を濃くする作用」があるため、
この薬では頭は増え、体毛は減ることがあります。
稀に反対に一部の毛が濃くなることもありますが、とても珍しいです。


相談が必要なケース

  • 体毛脱落が「病的な脱毛(円形脱毛など)」を疑う場合
  • 急激な全身脱毛
  • 多毛が急激に進む(内分泌疾患を疑う場合)

などは鑑別が必要です。