DHTと精巣機能の関係

DHT(ジヒドロテストステロン)と精巣機能の関係を、医学的知見に基づいて整理します。結論から先に言うと、DHTは精巣そのもの(精子を作る機能)にはほとんど直接関与せず、精巣機能の中心はテストステロンとFSH/LHです。ただし「局所的DHTが持つ役割」「薬でDHTを抑えた場合の変化」など、補助的なポイントは存在します。


■ まず整理:精巣機能とは何か

医学的に「精巣機能」は2つに分かれます:

① 内分泌機能(ホルモン産生)

  • テストステロンの産生(ライディッヒ細胞)

② 生殖機能(精子形成=精子産生)

  • 精子の形成(セルトリ細胞+精細管)

つまり「精巣機能=精子を作ること+男性ホルモンを作ること」です。

このうち、精子産生の中心はFSH、テストステロンであり、DHTは主役ではありません


■ DHTが作られる場所

DHTは主に以下の場所で作られます:

  • 末梢組織(毛包、皮膚、前立腺)でテストステロンから変換
  • 精巣でも一部変換される

つまり、精巣は「DHTの生成工場」ではない。テストステロンが主力、DHTは末梢で作用を強める形。


■ 精巣とDHTの関わり(基本構造)

● 精巣の発達・形成期

胎児期〜思春期にかけては、DHTが男性性器の発達に重要なホルモンです。

  • 外性器形成(陰茎、陰嚢)
  • 前立腺形成
  • 思春期の男性化

→この時期に5α還元酵素欠損症があると、外性器が十分に男性化せず「女性様外陰部」を呈することがあります。
このことは「DHTが男性器形成に極めて重要である」ことを示しています。

※ただし精巣内部の「精子形成システム」自体は遺伝子(SRYなど)とFSH/LHが中心。


■ 成人男性におけるDHTの役割

成人になってからは、精巣への作用は限定的になります。

① ホルモンフィードバックはTが中心

  • 視床下部→ GnRH
  • 下垂体→ LH/FSH
  • 精巣→ テストステロン・精子産生

このフィードバックで重要なのはテストステロンとエストラジオールであり、DHTはフィードバックにほぼ関与しません。

→「DHTが下がってもテストステロンが正常なら、精巣機能は基本保たれる」。


■ DHTが精子形成に与える影響

精子形成(Spermatogenesis)は以下で決まります:

  • FSH:セルトリ細胞刺激
  • LH:ライディッヒ細胞→T産生
  • テストステロン:精細管内で高濃度に保たれる(局所濃度は血中の50〜100倍)

この「局所高濃度T」が決定的です。

一方で、

  • DHTは精細管内の重要因子ではない
    (DHT濃度は低い、受容体も少ない)

精子形成の中心はDHTではなく、精巣内のテストステロン濃度です。


■ DHT抑制薬と精巣機能

AGA治療薬(フィナステリド・デュタステリド)は5α還元酵素を阻害しDHTを低下させます。

ここで重要な点:

● テストステロンは下がらない

むしろ軽度上昇することが多い(DHTへの変換が減るため)。

  • DHT ↓ 60〜90%
  • テストステロン ↑ 10〜20%

このため、フィードバックの「テストステロン値」は保たれ、
LH/FSH→精子産生は基本維持される

● 報告:

症例ベースで以下の報告はあります:

  • 精子濃度低下
  • 精液量低下
  • 精子運動率低下

ただし影響は可逆性で、

  • 中止することで回復
  • 不妊治療医学の立場では「影響ありの可能性」扱い

最も影響しやすいのは「精液量」ですが、これは前立腺・精嚢分泌にDHTが関与するためであり、精子そのものではありません

→つまり「精子の数」よりも「精液(液体部分)」の方がDHT依存度が高い。


■ DHTが精巣に持つ“間接的”役割

① 反対経路:高DHT→精巣萎縮?

DHTやTの外部投与(筋トレ目的の違法アンドロゲン)は、強力なフィードバックでLH/FSHを抑え、精巣が萎縮します。

これは「DHTが精巣を萎縮させる」のではなく、

  • 外部アンドロゲン→脳が「ホルモン多い」と判断
  • LH/FSH分泌停止
  • 精巣でTが極端に減る
  • 精子形成停止

というメカニズムです。

つまり、DHTは「脳で止めるスイッチになりうる」ということ。


■ 「DHTが精巣に良い」は誤解

よくある誤解:

「DHTが高いと精巣機能が強い」

→逆です。精巣機能(精子形成)の決定因子はテストステロンの局所濃度。
DHTが高くても精子形成は増えません。

「DHTを上げると生殖能力が上がる」

→根拠なし。むしろ前立腺肥大やAGAを促進。

「DHTを抑えると不妊になる」

→一般男性で強い根拠はない。
ただし、不妊治療中の男性などは考慮が必要という「医学的慎重」表現はあります。


■ 生殖医学の結論

生殖医学の立場では、以下が主流です:

◆精巣機能の中心は

  • FSH(セルトリ細胞)
  • LH → テストステロン
  • 精巣内のテストステロン濃度

◆DHTの位置づけ

  • 思春期まで:男性器形成の主役
  • 成人後:精巣機能での役割は限定的・補助的

■ 分かりやすい例え

  • テストステロン:精巣のエンジン
  • FSH/LH:アクセルと燃料制御
  • DHT:車体デザインや外装の力強さ
    (渋さ・毛髪・前立腺など外見的特徴を決める)

エンジンの出力=DHTではない。


■ 「DHT・テストステロン・精巣機能」の関係表

項目 主役 DHTの寄与
男性器形成(胎児期) DHT 主役
思春期の外見変化 T+DHT 大きい
性欲 T 補助
勃起 血流・T 補助
精子形成 FSH・T ほぼ関与なし
精液量 前立腺DHT 部分的に関与
LH/FSH制御 T・E2 ほぼ関与なし
精巣萎縮 LH/FSH低下 間接的

■ 最重要ポイント

● 成人の精巣機能=DHTではなくテストステロン

  • 精子産生は精巣内の高濃度Tが必須
  • DHTが低くてもTが正常なら精子形成は保たれる

● DHTの影響は「精液量」に現れやすい

  • 前立腺・精嚢分泌が減り、精液量が減る可能性
  • ただし精子数ではない

● DHT抑制薬は基本安全

  • 不妊治療中は注意するが、一般男性の精巣機能に大きな影響はない
  • 効果は可逆性

● 「男らしさ」「生殖能力」を支えるのはテストステロン

  • DHTは枝葉、Tが幹