DHTと精液量の関係
DHT(ジヒドロテストステロン)と「精液量」の関係を、誤解が非常に多い領域なので、生殖生理の仕組み→DHTの役割→薬剤との関係→臨床知見まで整理して解説します。DHTは精液量の“中心ホルモンではなく、精液量の調整にはほぼ関与しません”。
◆ 結論
- 精液量を決める主因は「精嚢と前立腺の分泌」
- その調整は主にテストステロン(T)で行われる
- DHTは外性器発達と前立腺の組織維持に関与
- DHT単独で精液量が増減することはほぼない
- 5α-還元酵素阻害薬で精液量が減るのは“前立腺液低下”によるもの
- 精子量(精子数)と精液量は別物
- 血中DHTを上げても精液量は増えない
◆ ① 精液量はどこで作られるのか?
精液(Semen)は、精子だけではありません。
液体(精漿:せいしょう)と精子の混合物です。
構成比は明確です:
| 部位 | 精液に占める割合 |
|---|---|
| 精嚢(Seminal Vesicle) | 約 60〜70% |
| 前立腺(Prostate) | 約 20〜30% |
| 精巣上体・その他 | 約 5〜10% |
| 精子(精巣) | 約 1〜2% |
つまり、
精液量は「精嚢と前立腺の分泌量」でほぼ決まる
精子の量は精液量にほとんど影響しません。
◆ ② この臓器を支配するホルモンは?
生殖の司令塔は「LH(黄体形成ホルモン)」と「FSH」ですが、臓器そのものの成長と機能維持はテストステロン(T)が主体です。
Tが:
- 精嚢の液分泌を促す
- 前立腺の液分泌を促す
- 精管、精巣上体の成熟を促す
という構図です。
では、DHTは?
→ DHTは「前立腺の組織維持」に強い作用を持ちます。
- 前立腺細胞の増殖
- アンドロゲン受容体刺激
- 器官の形態維持
ただし、分泌量(液量)を直接増やす作用ではありません。ここが誤解されやすいポイントです。
◆ ③ 「DHTが強い=精液量が多い」の誤解
DHTはアンドロゲン作用が強く、外性器や前立腺の発達に重要ですが、成人以降の分泌量は“テストステロンがスイッチ”です。
多くの誤解は:
胎児期・思春期の発達支配力 → 成人の生理作用まで続く
と考えてしまうところにあります。
実際の生理学的理解は:
- 発達期の主役:DHT
- 成熟期(成人以降)の機能維持:テストステロン+DHT(補助)
です。
◆ ④ なぜDHT低下で精液量が減る場合があるのか
AGA治療薬(フィナステリド、デュタステリド)服用で「精液量が減った」と感じる人がいます。
その理由は前立腺液の量が減るからです。
メカニズムはシンプルで:
- フィナ/デュタ → DHT抑制 → 前立腺体積が縮小 → 分泌される前立腺液が減る
結果として精液量はやや減ることがあります。
※前立腺液は精液の約20〜30%を占めるので、ここが減ると全体が減少したように見える。
ただし、精嚢からの分泌(60〜70%)はテストステロン支配なので、個人差はありますが、「劇的に減るケースは少ない」です。
臨床試験でも:
- 15〜25%減少:最もよく見られる範囲
- 50%以上減少:稀
という程度です。
◆ ⑤ DHTを増やせば精液量は増える?
答えはNoです。
理由は:
- 精嚢液の主スイッチはTであり、DHTではない
- 前立腺が大きくなっても分泌量は比例しない
- 血中DHTが増えても分泌機能は変化しない
- 精液は「器官のサイズ」ではなく「分泌活動」で決まる
なので、
「DHTサプリ」や「DHTを上げたい」という発想で精液量を増やすことはできません。
◆ ⑥ 精子と精液量を混同するケース
よくある誤解が:
DHTを上げる=精子が増える=精液量が増える
これはすべて誤りです。
- 精子量(精子数):精巣で作られる、FSHとテストステロン支配
- 精液量(液体):精嚢と前立腺由来、主にテストステロン支配
精子が増えても精液量は増えないし、
DHTが増えても精子は増えない。
ここを分離して理解することが重要です。
◆ ⑦ 精液量に本当に影響する因子(科学的根拠)
精液量を増減させる要因は、次の通りです:
● 増える要因
- 射精間隔:間隔が長いと増える
- 年齢:若いほど多い
- 水分摂取
- 睡眠(Tが上がる)
- 運動(T上昇)
- 亜鉛など栄養(T生成)
つまり、「テストステロン上がる→精嚢活性↑ →精液量↑」という流れ。
● 減る要因
- 年齢(前立腺と精嚢機能が落ちる)
- 5α還元阻害薬(前立腺縮小)
- 睡眠不足(テストステロン低下)
- 肥満(T低下)
- 慢性疾患(糖尿病など)
- 脱水
- 頻回射精
◆ ⑧ 「DHT抑制薬は精液量を減らす」のは正しいか?
部分的に正しいですが、正確に言うと:
DHT抑制薬は、精液量を“DHTが原因で”減らすのではなく、“前立腺液の減少”で相対的に減らす
です。
つまり、
- 精嚢分泌が減っているのではない
- 精子数にも直接影響しない
- “液の構成割合”が変わるだけ
◆ ⑨ 「精液量を維持したい」なら何をする?
科学的に効果がある方法は、DHTではなくテストステロンを正常に維持する生活です。
- 睡眠(深睡眠はT生成の中心)
- 筋トレ(特に大筋群)
- 体脂肪を減らす(肥満はTを下げる)
- 高ストレスを避ける(コルチゾール↑ →T↓)
- 禁酒・減酒(T低下防止)
- 栄養(亜鉛、ビタミンD)
これらが直接、精嚢と前立腺の働きを支えます。
◆ 超要約(1分で理解)
■ 精液量を決めるのは…
精嚢と前立腺の分泌量であり、精子はほぼ関係ない。
■ ホルモンの役割…
分泌量のスイッチ:テストステロン
器官維持の補助:DHT
■ DHTと精液量の関係…
DHTを上げても精液量は増えない。
DHTを下げる薬で精液量が減るのは、前立腺液が減るため。
■ 正しい理解…
DHTは“生殖器官の形態維持のホルモン”であり、“精液量を調整するホルモンではない”





