デュタステリドの副作用:肝機能障害他

デュタステリドの副作用

重大な副作用(頻度不明):肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、ビリルビンの上昇等を伴う肝機能障害や黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。と添付文書に記載があります。丁寧に分解して、臨床的な意味・想定される機序・頻度・観察・対応(いつ中止するか、どの検査をするか)までまとめます。。


1) 「何が起きているのか?」――検査値と症状の意味

  • AST(GOT)/ALT(GPT)上昇:肝臓の細胞がダメージを受けると血中に漏れる酵素です。上昇の程度(軽度〜重度)や持続性で重症度を推定します。(Japic Pins)
  • ビリルビン上昇/黄疸:赤血球分解や肝内処理(取り込み・抱合・胆汁排泄)の障害があると血中ビリルビンが上がり、皮膚・白目が黄色く見えます。肝障害が進んでいる重要なサインです。(Japic Pins)

2) デュタステリドでの起こり方(頻度・重篤さ)

  • 日本の添付文書では 「肝機能障害(1.5%)、黄疸(頻度不明)」 と記載されています。AST/ALT/ビリルビン上昇を伴う肝機能障害や黄疸が報告されることがある、という扱いです。(Japic Pins)
  • 一方、専門の薬剤性肝障害レビュー(LiverTox)では、デュタステリドは血清トランスアミナーゼ(AST/ALT)上昇は稀で軽度が多く、臨床的に明らかな急性肝障害(重症の薬物性肝障害)へつながった報告はほとんどないと評価されています(「可能性は低い」)。つまり多数例は軽度・一過性、重篤例は稀。(NCBI)

3) なぜ起こる(考えられる機序)

  • デュタステリドは主に肝臓(CYP3A4)で代謝されます。代謝産物や個体差(遺伝、併用薬での代謝阻害)による偶発的(idiosyncratic)反応や、代謝負荷による肝障害が機序として想定されます。添付文書もCYP3A4阻害薬との併用に注意を促しています。(Japic Pins)
  • 研究・動物データでは代謝や脂質代謝への影響を指摘するものもあり、長期投与で肝マーカーが変動する報告もありますが、臨床的重篤肝不全への因果は限定的です(議論あり)。(PMC)

4) 臨床での“観察すべき症状”と“検査”

患者が気付く症状(早期)

  • 皮膚や白目の黄染(黄疸)
  • 尿が濃くなる(胆汁性尿)
  • 倦怠感、食欲不振、吐き気、右上腹部痛、かゆみ(胆汁うっ滞で強くなる)
    これらが出たらすぐに受診・服薬中止を検討。(Japic Pins)

検査(医師側で実施)

  • AST(GOT)、ALT(GPT)、総ビリルビン、直接ビリルビン、ALP(アルカリフォスファターゼ)、総蛋白/アルブミン、必要ならPT/INR。肝障害のパターン(肝細胞性か胆汁うっ滞性か)を判断します。(ClinicalTrials.gov)

5) 「いつ投与を中止するか」

添付文書は「異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと」としていますが、臨床試験や肝障害プロトコルでよく使われる一般的な基準は次の通りです(薬剤全般の肝障害対応基準に準拠):

  • 症状を伴う肝酵素上昇(黄疸・全身症状がある)→即時中止。(Japic Pins)
  • 無症候のトランスアミナーゼ上昇:ALTまたはASTが3×上限正常値(ULN)超、あるいは5×ULN持続(臨床状況による)で中止を検討。多くの臨床試験プロトコルではALT/ASTが>3×ULNかつ総ビリルビン>2×ULNの場合に中止を指示します。(ClinicalTrials.gov)
  • 黄疸(臨床的/ビリルビン上昇)を認める場合は重篤性を示唆するため直ちに中止・精査。(Japic Pins)

※デュタステリドの添付文書自体は「具体的な数値基準」を詳細に列挙していない場合が多く、上の数値(3×ULN、2×ULNのビリルビン等)は一般的な薬剤性肝障害(DILI)対応の国際的基準や臨床試験プロトコルに基づく目安です。臨床では医師が患者背景(肝疾患の有無、併用薬、症状)を総合して判断します。(ClinicalTrials.gov)


6) 服薬中の現実的な管理(患者向け・医師向けまとめ)

患者向け

  1. 投与前に医師が肝機能(血液検査)を行うことが望ましい。(Japic Pins)
  2. 服薬中に黄疸・強い倦怠感・食欲不振・濃い尿・腹痛が出たらすぐ受診して検査・服薬中止の相談を。(Japic Pins)
  3. 他の肝障害を起こす薬(CYP3A4阻害薬を含む)を服用している場合は事前に必ず伝える。(KEGG)

7) もし肝酵素上昇が出たら

  1. まず薬剤を中止(特に症状あり、ビリルビン上昇ありの場合)。添付文書も中止を指示しています。(Japic Pins)
  2. 追加検査:AST/ALT/総・直接ビリルビン/ALP/血清アルブミン/PT-INR、必要なら腹部超音波、ウイルスマーカー(HBV/HCV)や自己免疫肝炎パネルなど。肝専門医へ相談。(ClinicalTrials.gov)
  3. 多くの症例は薬剤中止後に改善するが、黄疸や合併症がある場合は入院管理を含めた評価が必要。(NCBI)

8) 要点

  • デュタステリドは稀だが肝機能障害・黄疸を報告しており、添付文書では肝機能障害の発現率を1.5%としています。(Japic Pins)
  • 多くは軽度のトランスアミナーゼ上昇で一過性だが、黄疸や明らかな肝不全を示す症状が出たら直ちに中止・精査が必要。(NCBI)
  • 投与前の肝機能確認、併用薬(特にCYP3A4阻害薬)の確認、症状の観察が実務上重要です。(KEGG)