「急激な脱毛」が起きている=AGAではない可能性とは
「急激な脱毛(短期間で大量に抜ける)」が起きている場合に なぜAGA(壮年性脱毛症)ではない可能性が高いのか を、原因・病態・臨床所見・診断ポイント・対応(いつ受診するか/検査・治療の違い)という流れで詳しく整理します。
1) 基本の違い — 進行速度とパターンが決定的
- AGA(壮年性脱毛症)
- 発症はゆっくり。数年〜数十年かけて徐々に薄くなる。
- 男性は前頭部(M字)・頭頂部、女性は頭頂部のびまん性が典型。
- 炎症・痛み・赤み・局所的な抜け落ち(斑状)は通常伴わない。
- 急激な脱毛
- 数週間〜数か月で急に抜け毛が増える、あるいは局所的に“ごっそり”抜ける。
- 進行速度が速く、しばしば原因(ストレス・病気・薬剤など)が明らか。
→ つまり「スピード」と「パターン」が違うため、急激ならAGA以外をまず考える。
2) 急激脱毛の主な原因(まとめ)
- 休止期脱毛症(telogen effluvium)
- 大量の毛が一斉に“休止期(telogen)”に移行して抜ける。
- 原因:重度のストレス、発熱性疾患、手術、急な体重減少、鉄欠乏・甲状腺異常、出産後など。
- 特徴:全頭にびまん性に抜ける。発症から数週間〜数か月後にピーク。
- 円形脱毛症(alopecia areata)
- 自己免疫で毛包が攻撃されて局所的に丸く抜ける。
- 特徴:急に局所(10円玉大など)がごっそり抜ける。境界がはっきり。場合により多発や全頭(alopecia totalis)化。
- 薬剤性脱毛(drug-induced)
- 抗がん剤は代表(anagen effluvium: 成長期の毛がすぐ抜ける)。その他、抗甲状腺薬、抗凝固薬、抗うつ薬などで休止期脱毛を誘発。
- 瘢痕性脱毛(scarring alopecia)や感染症(例:頭部白癬)
- 皮膚の炎症や組織破壊で毛が永続的に失われる。痛み・赤み・痂皮(かさぶた)を伴うことが多い。
- 栄養障害・内分泌疾患
- 鉄欠乏、亜鉛不足、甲状腺機能低下/亢進なども急速な脱毛の原因になり得る。
- トリコチロマニア(抜毛症)
- 患者自身が毛を抜く行為により斑状脱毛になる。鑑別で心理的因子を考える。
3) ポイント
- 発症時期と経過:いつから?急に増えたか?(急性=数週間〜数か月)
- 抜け方のパターン:全体が薄くなるか、局所(円形)か、前頭/頭頂か。
- 伴う症状:かゆみ・痛み・赤み・発赤・炎症性のかさぶた・フケなどは感染・炎症を示唆。
- 引っ張り試験(pull test):軽く引いて何本抜けるか(正常は少数)。大量なら休止期脱毛を示唆。
- トリコスコピー(毛髪用拡大鏡):毛幹・毛孔の所見で円形脱毛やAGAの所見を区別できる。
- 全身チェック:体重変化、発熱歴、最近の手術・出産・薬開始・ストレスなどの問診。
4) 鑑別診断
- 血液検査:血算、鉄(フェリチン)、甲状腺機能(TSH, FT4)、フェリチン、ビタミンD、亜鉛など。
- 真菌培養/顕微鏡:白癬(頭部真菌症)疑い時。
- トリコスコピー所見の記録。
- 皮膚生検(必要時):瘢痕性脱毛や診断が不確かな場合に行う。
5) AGAとどう違うか
- 休止期脱毛:原因(甲状腺異常、鉄欠乏、薬剤など)の是正が第一。自然回復することが多い(原因除去後数か月で改善)が、原因が続けば持続。
- 円形脱毛症:局所ステロイド注射やステロイド外用、全身免疫療法(重症例)などの免疫抑制療法が中心。ミノキシジルは補助的に用いられることもあるが、単独では根本治療にならない。
- 薬剤性・内科的原因:原因薬剤の中止や内科的治療が優先。
- 感染症:抗真菌薬・抗菌薬などの専用治療。
- AGA:ミノキシジルやフィナステリド(男性)などの毛周期を改善する治療がメイン。
→ ポイント:急性・斑状の脱毛でミノキシジルだけ塗ってしまうと「原因治療が遅れる」「炎症性病変を悪化させる」可能性がある。
6) ミノキシジル使用上の注意(急激脱毛が疑われる場合)
- 自己判断で即ミノキシジルを長期間使う前に、まずは皮膚科・形成外科・皮膚科系専門医の受診を推奨。
- 赤み・かさぶた・痛み・熱感・急速に拡大する斑 がある場合は、すぐ受診を。
- 円形脱毛症や真菌感染などの“治療が異なる”疾患が潜んでいることを念頭に。
7) 受診・相談の目安
- 数週間で抜け毛が急増している。
- 明瞭な斑状(1箇所以上の丸い脱毛斑)がある。
- 皮膚炎の所見(赤み・かさぶた・膿)がある。
- 発熱、体重減少、全身症状や最近の化学療法・薬剤開始の既往がある。
→ これらがあれば速やかに受診し、血液検査や皮膚検査を行うべきです。
8) セルフチェック
- 抜け始めたのはいつ?(急に?ゆっくり?)
- 抜け方は全体?局所?(円形があるか確認)
- 頭皮に赤み・かさぶた・かゆみはあるか?
- 最近大きなストレス、手術、発熱、出産、薬を始めたか?
- 家族に同じような薄毛の人がいるか?(遺伝的なAGAを考える)
まとめ
- 「急激に抜ける」「斑状に抜ける」場合はAGAではない可能性が高く、原因検索(休止期脱毛、円形脱毛、薬剤性、感染、内分泌異常など)を優先する必要があります。
- ミノキシジルはAGAには有効ですが、急性・斑状脱毛の“根本治療”ではないため、まず適切な診断を受けることが重要です。






