アルコール依存症とアルコール乱用がAUDに統合された理由

なぜ・どのように従来の 「アルコール依存症」「アルコール乱用」AUD(Alcohol Use Disorder)統合されたのかを、診断学・臨床・実務の3層で詳しく解説します。


なぜ「依存症/乱用」はAUDに統合されたのか

1. 旧分類(DSM-IV)の問題点

DSM-IVまでは、アルコール関連障害を次の2つに分けていました。

旧分類

診断名 概要
アルコール乱用 社会的・法的問題が中心
アルコール依存症 耐性・離脱・制御不能

臨床で起きていた矛盾

  • 乱用 → 依存の順序が必ずしも成立しない
  • 耐性や離脱がなくても、重度の生活破綻が起きる
  • 法的問題がないと「乱用」にすら該当しない
  • 境界例が多く、診断が分かれる

二分法が現実の患者像に合わなかった


2. 統合の決定打となった科学的根拠

① 連続体(スペクトラム)モデル

研究により、飲酒問題は「正常 → 問題飲酒 → 重度障害」まで連続的(グラデーション)であることが明確になりました。

節度飲酒 ── 問題飲酒 ── 軽度AUD ── 中等度 ── 重度

「乱用」「依存」という断絶した箱は不適切


② 病態は同一(量の差)

  • 脳内報酬系(ドーパミン)
  • 前頭前野の抑制低下
  • GABA/グルタミン酸の再配線

違いは重症度のみで、病態は共通


③ 信頼性の向上

DSM-IVでは

  • 医師A「乱用」
  • 医師B「依存」

という診断不一致が頻発。

DSM-5では

  • 11項目のチェック数
  • 重症度分類

により、再現性が大幅改善


3. DSM-5で何が変わったか(具体)

統合後:AUD(11基準)

従来の「乱用+依存」基準を統合し、12か月以内に2項目以上でAUDと診断。

新規追加された重要項目

  • Craving(渇望)
    • 「飲みたい」という衝動自体を病的指標に

削除された項目

  • 法的問題
    • 文化・制度差が大きく、病態と直結しないため除外

4. 旧診断とAUDの対応関係

DSM-IV DSM-5(AUD)
乱用 軽度AUD
依存 中等度〜重度AUD
該当せず 問題飲酒(診断未満)

診断名が変わっても、患者が変わったわけではない


5. 「依存症」という言葉をやめた意味

スティグマ(烙印)の問題

  • 「依存症」=人格・意志の問題
  • 受診忌避・治療遅延を招いていた

AUDの意義

  • 疾患名として中立
  • 早期(軽度)介入がしやすい
  • 「治療可能な脳疾患」という理解を促進

6. 臨床現場での実務的メリット

① 早期発見が可能に

  • 旧「乱用未満」でも
    軽度AUDとして介入

② 治療選択が柔軟

重症度 主な戦略
軽度 減酒+行動療法
中等度 薬物療法併用
重度 断酒+多職種連携

7. 男性医療(ED・低T)との接点

旧分類では見逃されていた層:

  • 「依存症ではないが飲酒量が多い」
  • しかし
    • テストステロン低下
    • SHBG上昇
    • ED薬無効

現在は軽度AUDとして介入対象


8. 重要な誤解の整理

誤解 実際
AUD=重度依存症 軽度〜重度まで
耐性がないから大丈夫 それでもAUDあり
意志の問題 脳機能障害

9. まとめ(統合の本質)

  • 二分法 → 連続体モデル
  • 病態は共通、違いは重症度
  • 早期介入・スティグマ低減・診断精度向上