カルプロニウム塩化物外用は男性型脱毛症・女性型脱毛症に有効?

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知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス

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「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く

CQ7 カルプロニウム塩化物外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?ガイドライン「推奨度C1」をわかりやすく解説

長年使われてきた外用薬なのに、なぜ推奨度はC1?5%カルプロニウム塩化物の作用、臨床研究、女性へのエビデンス、ミノキシジルとの違いまで解説します

 

AGA(男性型脱毛症)の外用治療というと、現在ではミノキシジルがよく知られています。一方、日本では以前から脱毛症の治療に使用されてきた外用薬の一つにカルプロニウム塩化物があります。日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、CQ7として、「カルプロニウム塩化物の外用は有用か?」というClinical Questionが設定されています。その結論は、推奨度C1:行ってもよいです。CQ3のミノキシジル外用はA、CQ6のアデノシン外用は男性B・女性C1でした。それに対してカルプロニウム塩化物はC1です。ただし、C1を「効果がない」と読むのは適切ではありません。むしろCQ7は、日本で長く使用され、多くの診療実績がある一方、現在のガイドラインが重視する水準の臨床試験が十分ではない治療をどう評価するかを理解するうえで興味深い項目です。


カルプロニウム塩化物とはどんな薬?

カルプロニウム塩化物は、頭皮などに塗布して使用する外用薬です。現在の医療用医薬品「フロジン外用液5%」の添付文書では、カルプロニウム塩化物の局所血管拡張作用を利用し、各種脱毛症における脱毛防止・発毛促進などに用いる薬とされています。効能には円形脱毛症、びまん性脱毛症、壮年性脱毛症などが含まれています。薬理学的にはアセチルコリンに似た作用を持ち、皮膚の血管を拡張させる作用があります。患者さん向けに簡単に表現すると、頭皮に作用して局所の血管を広げ、毛髪が成長する環境へ働きかける外用薬と考えると分かりやすいでしょう。ただし、「血流を良くすればAGAが治る」と単純化することはできません。AGAの中心的な病態にはDHTによる毛周期の短縮や毛包のミニチュア化が関係しており、カルプロニウム塩化物はフィナステリドやデュタステリドのようにDHT産生を抑える薬ではありません。


なぜ推奨度はC1なの?

CQ7を理解する最大のポイントです。2017年版ガイドラインでは、カルプロニウム塩化物について、男性型脱毛症を対象とした、4件の症例集積研究と1件の非ランダム化比較試験が確認されています。一方、女性を含む研究は存在したものの、女性型脱毛症そのものに対する臨床効果を検討した試験は実施されていないとしています。つまり、有効性を示唆する研究はありますが、フィナステリドやミノキシジルのように、大規模なランダム化比較試験やシステマティックレビューが豊富に存在するわけではありません。これがC1となった大きな理由です。


C1は「効かない」という意味ではない

2017年版ガイドラインでは推奨度を、

A:行うよう強く勧める
B:行うよう勧める
C1:行ってもよい
C2:行わないほうがよい
D:行うべきではない

と分類しています。したがってC1は、「治療選択肢として使用することはできる。ただし、有効性を裏付ける医学的根拠はAやBほど強くない」という位置づけです。CQ7では特に、長年の使用実績はあるが、現代的な臨床試験による証明は十分ではないという点が重要になります。


5%カルプロニウム塩化物の研究ではどうだった?

ガイドラインでは、5%カルプロニウム塩化物を使用した男性6人を対象とする、1か月間の二重盲検非ランダム化比較試験が紹介されています。結果は、6人中4人で脱毛減少または発毛が認められ、有効と判断されました。一方、カルプロニウム塩化物を含まない偽薬では有効例がありませんでした。一見すると良い結果に見えます。しかし、対象者はわずか6人です。現在の医学研究では、この規模の試験だけで「AGAに高い発毛効果が証明された」と結論づけることは困難です。


10%カルプロニウム塩化物の研究では?

別の症例集積研究では、男性4人に10%カルプロニウム塩化物外用薬を77~129日間使用しています。その結果、4人中2人で脱毛抑制および軽度の発毛効果が認められ、有効と判断されています。ただし、こちらもわずか4人です。また、症例集積研究は、治療した患者さんを観察して結果を見る研究であり、無作為化された対照群との比較ではありません。そのため、

「自然経過だった可能性」
「評価者の主観が影響した可能性」
「患者さんごとのAGAの程度が違う可能性」

などを十分に排除できません。


5%を3~6か月使用した研究では?

5%カルプロニウム塩化物を男性5人に3~6か月使用した別の症例集積研究では、5人中3人で「やや有効」との結果が報告されています。ここでも一定の効果を示す結果は得られています。しかし、

6人
4人
5人

といった非常に小規模な研究が中心です。これが、「効果を示す報告はあるのにAやBにはならない」理由を理解するうえで重要です。


生薬を配合した製剤の研究もある

カルプロニウム塩化物については、単独製剤だけではなく、ほかの成分を加えた育毛剤の研究も行われています。ガイドラインでは、1%カルプロニウム塩化物にカシュウチンキ、チクセツニンジンチンキなどを配合した製剤を使用した研究を紹介しています。30人を対象とした3か月間の症例集積研究では、

「有効以上」20%
「やや有効以上」60%

という結果でした。さらに、2%カルプロニウム塩化物に生薬やヒノキチオールなどを加えた製剤について、男性75人・女性11人を24週間観察した研究では、

男性26.7%
女性54.5%

の改善率が報告されています。


配合剤の結果を「カルプロニウム単独の効果」と考えてよい?

ここは注意が必要です。これらの製剤にはカルプロニウム塩化物だけでなく、生薬成分やヒノキチオールなど複数の成分が含まれています。そのため、改善がみられたとしても、どの程度がカルプロニウム塩化物そのものによる効果なのかを切り分けることは困難です。「カルプロニウムを配合した製剤で改善例があった」ことと、「カルプロニウム単独の発毛効果がその改善率で証明された」ことは別です。これは育毛剤や複数成分を含むAGA治療製品を評価するときにも重要な考え方です。


それでもガイドラインがC1にした理由

2017年版ガイドライン自身は、カルプロニウム塩化物について、「現段階では有用性は十分に実証されていない」と評価しています。それでも「行わないほうがよい」というC2ではなく、C1=行ってもよいとしました。その理由として、5%カルプロニウム塩化物が長年にわたり保険適応となってきたこと。そして、生薬との合剤なども含め、日本国内で膨大な診療実績があることを挙げています。つまりCQ7は、

強い臨床試験の根拠は不足しているが、日本で長期間使用されてきた実績を考慮すると、治療選択肢から排除する必要まではない

という判断です。


ミノキシジル外用とはどう違う?

患者さんにとって最も分かりやすい比較はCQ3のミノキシジルでしょう。

治療 2017年版推奨度 エビデンスの特徴
ミノキシジル外用 A 多数のRCT・システマティックレビュー
アデノシン外用 男性B/女性C1 男性RCT3件、女性RCT1件
カルプロニウム塩化物外用 C1 小規模な症例集積・非ランダム化比較試験が中心

カルプロニウム塩化物がC1なのは、単に「古い薬だから」ではありません。有効性を評価する研究の質・規模・量がミノキシジルほど十分ではないことが大きな違いです。


「血行を良くする薬」とミノキシジルは同じ?

どちらも血管に関係する作用が語られることがありますが、同じ薬ではありません。カルプロニウム塩化物の医療用添付文書では、局所血管拡張作用を脱毛防止・発毛促進へ応用した薬剤と説明されています。一方、ミノキシジル外用は多数のAGA・女性型脱毛症のランダム化比較試験によって発毛効果が確認され、CQ3でAと評価されています。したがって、「どちらも血流に関係するから効果は同じ」とは考えられません。ガイドライン上の評価には明確な差があります。


フィナステリド・デュタステリドとも役割が違う

フィナステリドやデュタステリドは、男性AGAの進行に重要なDHTを抑える薬です。カルプロニウム塩化物には、その作用はありません。2017年版ガイドラインを並べると、

治療 主な位置づけ 男性AGA推奨度
フィナステリド内服 DHT産生を抑える A
デュタステリド内服 DHT産生を抑える A
ミノキシジル外用 発毛を促す A
アデノシン外用 毛髪成長・太毛化を促す B
カルプロニウム塩化物外用 局所血管拡張などを利用 C1

したがって、カルプロニウム塩化物を使用していることが、男性AGAにおけるフィナステリドやデュタステリドと同じ治療をしていることにはなりません。


女性型脱毛症にも使える?

CQ7では推奨度を男女別に分けて表示せず、C1としています。しかし、ガイドライン本文を詳しく読むと重要な注意点があります。女性を含んだ研究はあるものの、女性型脱毛症に対する臨床効果をきちんと検討した試験は実施されていないと明記されています。つまり、「CQ7がC1だから、女性型脱毛症についても男性と同程度の研究がある」という意味ではありません。女性型脱毛症については、CQ3でミノキシジル外用がAと評価されており、エビデンスの厚みは大きく異なります。


現在も5%カルプロニウム塩化物は医療用医薬品として存在する

2017年版だけの古い薬というわけではありません。2026年9月現在、PMDAにはフロジン外用液5%やカルプロニウム塩化物外用液5%の医療用医薬品情報が掲載されています。フロジン外用液5%は、カルプロニウム塩化物として1mL中50mgを含む製剤です。 (PMDA) 脱毛症に対する現在の添付文書上の用法は、1日2~3回適量を患部に塗布する、または被髪部全体にふりかけて軽くマッサージするというものです。ただし、実際の使用方法は処方された製剤の説明や医師・薬剤師の指示に従う必要があります。


副作用はある?

あります。現在のフロジン外用液5%の添付文書では、主な副作用として、一過性の発赤、かゆみ、刺激痛、局所発汗、熱感などが記載されています。頻度不明では、全身性の発汗や、それに伴う悪寒、戦慄、吐き気、嘔吐なども記載されています。外用薬だから全身への影響がまったくない、というわけではありません。


塗ったところが熱く感じるのはなぜ?

カルプロニウム塩化物にはアセチルコリン様作用があり、局所の血管を拡張するため、熱感や発汗などが起こることがあります。添付文書でも、刺激痛、局所発汗、熱感が副作用として記載されています。軽い温感を感じることがありますが、「熱ければ熱いほど効いている」と考えるのは適切ではありません。強い刺激や異常な発汗などが現れた場合には、使用を続けることが適切とは限りません。


お風呂上がりに使えば血行がさらに良くなって効果的?

むしろ注意が必要です。現在の添付文書では、湯上がり後などに使用すると副作用が強く現れる傾向があると注意されています。副作用が現れた場合には、使用部位を水などで洗い流すよう記載されています。したがって、「入浴後は血流が良いから、すぐ大量に塗ったほうが効く」という使い方は避けるべきです。


たくさん塗ればもっと発毛する?

推奨された量より多く使用すれば、発毛効果が比例して増えるという根拠はありません。一方で、使用量や条件によっては刺激、発汗、熱感などの副作用が強くなる可能性があります。医療用5%製剤には決められた用法があるため、自己判断で大量に塗布したり、回数を増やしたりしないことが重要です。


カルプロニウムを使えばAGAの進行を止められる?

この表現には注意が必要です。男性AGAの進行には、DHTによる毛周期の短縮が重要です。DHTを抑える治療としてガイドラインAなのは、CQ1のフィナステリドやCQ2のデュタステリドです。カルプロニウム塩化物はそれとは異なる機序の外用薬です。したがって、「カルプロニウムを塗っているからDHT対策もできている」ということにはなりません。AGAの診断を受けた男性で治療を考える場合には、それぞれの薬の役割を分けて考える必要があります。


「昔から使われている」ことと「エビデンスが強い」ことは別

CQ7は、ガイドラインの読み方を理解するうえで非常に良い例です。カルプロニウム塩化物には長い使用歴があります。現在のフロジン外用液5%の販売開始は1969年とされています。しかし、長く使用されている=推奨度Aではありません。医学的な推奨度では、

  • どのような試験が行われたか
  • 何人を対象にしたか
  • 対照群があるか
  • 無作為化されているか
  • 同じ結果が複数の研究で確認されたか

などが重要になります。カルプロニウム塩化物は長い使用経験がある一方、AGAを対象とした質の高い臨床試験が十分ではないためC1なのです。


では、カルプロニウム塩化物を使う意味はない?

そこまで言うこともできません。ガイドラインがC2ではなくC1=行ってもよいとしていることが重要です。一定の有効性を示す小規模研究が存在し、日本国内で長年使用されてきた実績もあるため、治療選択肢の一つとして認めています。一方で患者さんとしては、「使ってもよい治療」と「最も強く推奨される治療」は違うことを理解しておく必要があります。特にAGA治療で複数の外用薬から一つを選択する場合には、ガイドライン上のエビデンスの違いも判断材料になります。


CQ7についてよくある疑問

よくある疑問 患者さん向けの答え
カルプロニウム塩化物はAGAに効く? 有効性を示唆する研究があり、C1=行ってもよい
C1は「効かない」という意味? いいえ。効果の根拠がA・Bほど十分ではないという位置づけ
なぜC1なの? 小規模な症例研究や非ランダム化研究が中心だから
5%製剤の研究はある? 6人の研究で4人に脱毛減少または発毛が報告されている
ミノキシジルと同じくらい推奨? いいえ。ミノキシジル外用はA
アデノシンとの違いは? アデノシンは男性AGAでB、カルプロニウムはC1
女性型脱毛症にも十分な研究がある? いいえ。女性型脱毛症を直接検討した試験は不足
現在も医療用の薬がある? 5%カルプロニウム塩化物製剤が現在も承認されている
副作用は? 赤み、かゆみ、刺激痛、発汗、熱感など
入浴直後に使ってよい? 副作用が強く出る傾向があるため注意が必要

CQ7から分かること―「使ってもよい」と「第一選択」は同じではない

日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ7では、カルプロニウム塩化物外用:C1と評価されています。推奨文は「カルプロニウム塩化物の外用を行ってもよい」です。5%製剤などを用いた研究では、脱毛抑制や発毛を認めた症例が報告されています。しかし、6人、4人、5人といった小規模研究が中心であり、フィナステリドやミノキシジルのような大規模ランダム化比較試験が十分に揃っているわけではありません。ガイドライン自身も、カルプロニウム塩化物外用の有用性は十分に実証されていないと評価しています。それでもC1となったのは、日本で長期間使用されてきたことや、多くの診療実績が考慮されたためです。したがってCQ7を患者さん向けに一言で整理すると、「カルプロニウム塩化物には発毛・脱毛抑制を示唆するデータと長い使用実績があり、使ってもよい治療ではある。しかし、AGA治療としての科学的根拠はミノキシジルなどのA評価治療ほど強くない」ということになります。AGA治療を選ぶときには、

「薬として存在するか」
「昔から使われているか」
「発毛作用が説明されているか」

だけでなく、「AGAそのものを対象に、どの程度質の高い臨床試験が行われているか」まで確認することが重要です。

※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ7を中心に、一般患者向けに整理しています。現在の製剤情報・使用上の注意については、PMDA掲載のフロジン外用液5%の2025年改訂添付文書も参照しています。

「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」

「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く

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