「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
男性の薄毛治療(AGA)・女性の薄毛治療(FAGA)は何が推奨されている?診療ガイドライン2017年版をわかりやすく解説
フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジルから植毛・LEDまで。「推奨度A~D」が患者さんにとって何を意味するのかを整理します
AGA(男性型脱毛症)や女性型脱毛症には、内服薬、外用薬、光・レーザー治療、植毛など、さまざまな治療法があります。選択肢が多いため、「結局どの治療が医学的に勧められているの?」「ミノキシジルは塗るのと飲むのでは何が違う?」「クリニックで勧められた治療はガイドラインではどう評価されている?」と迷う方もいるでしょう。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、こうした疑問を14のClinical Question(CQ:臨床上の疑問)に分け、それぞれの治療について推奨度をA~Dで示しています。日本皮膚科学会の一般公開ガイドライン一覧でも、現在この2017年版が公開されています。(日本皮膚科学会) ここでは専門家向けの表現を、実際に薄毛治療を考えている患者さんの視点から読み解いていきます。
まず知っておきたい「推奨度A・B・C1・C2・D」の意味
ガイドラインのアルファベットは、単純な「効き目ランキング」ではありません。研究結果や安全性などを総合して、その治療をどの程度勧められるかを示したものです。
| 推奨度 | ガイドライン上の意味 | 患者さん向けに言い換えると |
|---|---|---|
| A | 行うよう強く勧める | 標準的な治療として積極的に検討できる |
| B | 行うよう勧める | 有力な選択肢として検討できる |
| C1 | 行ってもよい | 選択肢にはなるが、A・Bほど根拠は強くない |
| C2 | 行わないほうがよい | 積極的には選びにくい |
| D | 行うべきではない | 原則として推奨されない |
ガイドラインでは、Aは有効性を示す質の高い研究がある場合、Bは一定水準の研究結果がある場合、C1は根拠が限定的ながら選択肢となり得る場合、C2は有効性の根拠が乏しい場合、Dは無効または有害性を示す根拠がある場合などに設定されています。ただし、研究だけでなく日本での診療事情や専門家の合意を踏まえて決められた項目もあります。
つまり、「C1だから効かない」「Aなら必ず生える」という意味ではありません。
CQ1 フィナステリドはAGA治療に有効?
男性のAGAでは推奨度A、女性型脱毛症では推奨度D
フィナステリドは、男性のAGA治療ではガイドライン上A=強く推奨される治療です。
AGAに関係するDHT(ジヒドロテストステロン)が作られる過程を抑えることで、髪の毛が細く短くなっていく「毛包のミニチュア化」を抑える治療です。一方、女性型脱毛症についてはD=行うべきではないとされています。女性では有効性が十分確認されていないことに加え、妊娠中または妊娠の可能性がある女性では男子胎児の生殖器の発育に影響する可能性があるためです。患者さん向けにまとめると
男性のAGAでは代表的な標準治療。女性の薄毛治療として使用する薬ではありません。
CQ2 デュタステリドはAGA治療に有効?
男性は推奨度A、女性は推奨度D
デュタステリドもフィナステリドと同じく、男性型脱毛症では推奨度Aです。
どちらも5α還元酵素を阻害してDHTの生成を抑える薬ですが、作用する酵素のタイプに違いがあります。男性のAGAでは有力な治療選択肢ですが、女性型脱毛症については推奨度Dとされています。患者さん向けにまとめると
男性AGAではフィナステリドと並ぶ主要な内服治療。女性には推奨されません。
CQ3 塗るミノキシジルは薄毛治療に有効?
推奨度A―男女ともに強く推奨される治療
ミノキシジル外用薬、つまり頭皮に塗るタイプのミノキシジルは推奨度Aです。
男性型脱毛症だけでなく、女性型脱毛症においても重要な治療選択肢となります。日本皮膚科学会の患者向け解説でも、女性型脱毛症で最も勧められる薬剤としてミノキシジル外用剤が紹介されています。(公益社団法人日本皮膚科学会) 患者さん向けにまとめると
「ミノキシジル」と聞いたときは、まず「塗り薬」と「飲み薬」を区別することが重要です。ガイドラインでAなのは外用薬です。
この違いは、後述するCQ14を理解するうえでも非常に重要です。
CQ4 植毛は薄毛治療として有効?
自毛植毛と人工毛植毛では評価が大きく異なる
植毛には大きく分けて、
- 自分の毛包を移植する「自毛植毛」
- 人工物を頭皮に植え込む「人工毛植毛」
があります。ガイドラインでは自毛植毛は男性型脱毛症B、女性型脱毛症C1です。一方、人工毛植毛はDとなっています。自毛植毛では、AGAの影響を受けにくい後頭部などの毛包を薄くなった部分へ移植します。日本皮膚科学会の患者向け解説でも、治療効果が高い一方、手術であり、薬物治療より費用がかかることが説明されています。(公益社団法人日本皮膚科学会) 患者さん向けにまとめると
「植毛なら何でも同じ」ではありません。ガイドラインでは、自分の毛を移植する自毛植毛と人工毛植毛を明確に区別しています。
CQ5 LEDや低出力レーザーは薄毛治療に有効?
推奨度B―治療選択肢として推奨
LEDや低出力レーザーを頭皮へ照射する治療は推奨度Bです。
2017年版ガイドラインでは、男女それぞれを対象とした比較試験で毛髪数の増加が確認され、副作用も比較的軽微だったことなどから、「行うよう勧める」とされています。ただし、「光を当てれば何でも同じ」という意味ではありません。波長、出力、使用方法、機器などによって条件が異なります。患者さん向けにまとめると
薬以外の治療として一定の医学的根拠があります。ただし使用する機器まで確認することが大切です。
CQ6 アデノシン配合の育毛剤は有効?
男性はB、女性はC1
アデノシン外用は、
男性型脱毛症:B
女性型脱毛症:C1
という評価です。
男性では「行うよう勧める」、女性では「行ってもよい」という位置づけになります。したがって男性AGAの場合、ミノキシジル外用やフィナステリド・デュタステリドより一段低い位置づけですが、外用治療の選択肢になります。
CQ7 カルプロニウム塩化物は薄毛に有効?
推奨度C1―使用してもよい治療
カルプロニウム塩化物外用は推奨度C1です。
「使用してはいけない」のではなく、使用を検討することはできるものの、AやBの治療ほど強く推奨する根拠はない、という理解が適切です。
CQ8 t-フラバノンは薄毛に有効?
推奨度C1―選択肢にはなる
t-フラバノンの外用はC1です。
育毛剤などに使用される成分ですが、ガイドライン上では「行ってもよい」というレベルです。患者さん向けには
AGA治療の中心となる治療というより、補助的な選択肢として考える位置づけです。
CQ9 サイトプリン・ペンタデカンは薄毛に有効?
推奨度C1―積極的推奨ではないが選択肢
サイトプリンおよびペンタデカンの外用もC1です。
市販の育毛関連製品にはさまざまな成分がありますが、ガイドラインを見ることで、「販売されていること」と「医学的に強く推奨されていること」は別であることが分かります。
CQ10 ケトコナゾールの外用は薄毛治療に使える?
推奨度C1
ケトコナゾール外用はC1=行ってもよいという評価です。
したがってAGAそのものに対する第一選択治療という位置づけではありません。
CQ11 かつらを使うことにも医学的な意味がある?
推奨度C1―見た目の改善も治療の一部として考えられる
少し意外に思われるかもしれませんが、ガイドラインではかつらの着用もCQとして検討され、C1とされています。
薄毛治療の目的は毛髪を増やすことだけではありません。脱毛症は外見に影響し、生活の質(QOL)にも影響を与えることから、見た目を補う方法にも一定の意味があります。ガイドライン自体も、脱毛がQOLへ大きな影響を与えることを背景として挙げています。
CQ12 ビマトプロスト・ラタノプロストは頭髪にも有効?
推奨度C2―積極的には勧められない
ビマトプロストやラタノプロストの外用はC2です。
C1とは一段違い、「行ってもよい」ではなく「行わないほうがよい」という位置づけです。薄毛治療として一般患者さんが積極的に選択する治療とは考えにくいでしょう。
CQ13 成長因子・幹細胞・再生医療による薄毛治療は有効?
推奨度C2―「新しい治療=推奨度が高い」とは限らない
成長因子導入や細胞移植療法についてはC2です。
ガイドラインでは、脂肪組織由来幹細胞の培養上清やPRPなどについて研究が行われていたものの、安全性を含めて十分に検証されたとはいえず、当時の段階では広く一般に実施できる治療とは言いにくいとしていました。(日本皮膚科学会) これは患者さんにとって重要なポイントです。
「最新治療」「再生医療」「成長因子」といった名称そのものが、治療効果の高さを保証するわけではありません。
自由診療で高額な治療を検討するときほど、何を使用するのか、どのような研究があるのか、承認された治療なのかを確認することが重要です。
CQ14 飲むミノキシジルはAGA治療に有効?
推奨度D―塗るミノキシジルとは評価がまったく違う
ここは2017年版ガイドラインを読むうえで、特に重要なCQです。
ミノキシジル外用:A
ミノキシジル内服:D
となっています。つまり同じ「ミノキシジル」という名前でも、頭皮に塗る治療と、錠剤として飲む治療を同じものとして考えてはいけません。2017年版ガイドラインでは、ミノキシジル内服について脱毛症治療として利益と危険性が十分検証されておらず、胸痛、頻脈、動悸、息切れ、浮腫、うっ血性心不全などの心血管系への影響にも触れたうえで、推奨度Dとしています。(日本皮膚科学会) 患者さん向けにまとめると
「ミノキシジルはガイドラインでA」とだけ説明された場合には、外用薬の話なのか、内服薬の話なのかを確認する必要があります。
ガイドラインから見えてくる「AGA治療の優先順位」
14のCQを患者さんの立場から大きく整理すると、治療の位置づけがかなり分かりやすくなります。
| 治療 | 男性型脱毛症 | 女性型脱毛症 | 患者さん向けの位置づけ |
|---|---|---|---|
| フィナステリド内服 | A | D | 男性AGAの中心的治療 |
| デュタステリド内服 | A | D | 男性AGAの中心的治療 |
| ミノキシジル外用 | A | A | 男女とも主要な治療 |
| 自毛植毛 | B | C1 | 薬以外の選択肢 |
| 人工毛植毛 | D | D | 推奨されない |
| LED・低出力レーザー | B | B | 補助治療として選択肢 |
| アデノシン外用 | B | C1 | 男性では比較的推奨度が高い |
| カルプロニウム塩化物 | C1 | C1 | 選択肢の一つ |
| t-フラバノン | C1 | C1 | 補助的選択肢 |
| サイトプリン・ペンタデカン | C1 | C1 | 補助的選択肢 |
| ケトコナゾール外用 | C1 | C1 | 限定的な位置づけ |
| かつら | C1 | C1 | QOL改善の選択肢 |
| ビマトプロスト・ラタノプロスト | C2 | C2 | 積極的には勧めない |
| 成長因子導入・細胞移植 | C2 | C2 | 十分な検証が必要 |
| ミノキシジル内服 | D | D | ガイドラインでは推奨されない |
この一覧だけを見ても、「クリニックで提供されている治療=ガイドラインで強く推奨されている治療」ではないことが分かります。公式のCQ一覧でもこの推奨度の違いが明確に示されています。
男性と女性では、薄毛治療の考え方が違います
男性AGAと女性型脱毛症では見た目が似る場合があっても、治療法は同じではありません。男性ではフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジル外用が推奨度Aですが、女性の場合、フィナステリドとデュタステリドはDです。一方、ミノキシジル外用は女性でも主要な治療となります。日本皮膚科学会も女性型脱毛症では、ミノキシジル外用を最も勧められる薬剤として紹介しています。(公益社団法人日本皮膚科学会) また、女性の薄毛ではAGA・女性型脱毛症だけでなく、慢性休止期脱毛、貧血、甲状腺疾患、急激なダイエット、薬剤などによる脱毛との鑑別が重要とされています。そのため「薄毛だからAGA治療薬を使う」という考え方ではなく、まず原因を確認することが大切です。
「推奨度Aなら絶対に効く」という意味ではありません
ガイドラインの推奨度は、個人の治療結果を保証する数字ではありません。Aの治療でも、年齢、脱毛の進行度、治療開始時期、体質などによって結果は異なります。またAGAは徐々に進行するため、短期間だけ使用して効果を判断するのが適切でない治療もあります。反対にC1だから「効果がない」と断定することもできません。重要なのは、
「その治療にどの程度の医学的根拠があるのか」
「自分に適した治療なのか」
「期待できる効果とリスクは何か」
を分けて考えることです。
薄毛治療を選ぶときは「治療名」だけで判断しない
現在はAGAや女性の薄毛について非常に多くの治療が紹介されています。しかし、治療を選ぶ際には「発毛」「再生」「最新」「オーダーメイド」といった名称だけではなく、実際に何という薬剤・成分・機器を使用する治療なのかを確認することが重要です。特にミノキシジルでは、2017年版ガイドライン上、外用はA、内服はDという大きな違いがあります。(日本皮膚科学会) 患者さん側も、「ミノキシジルを使います」という説明だけではなく、
塗る薬なのか、飲む薬なのか。
国内で承認された使用方法なのか。
どの程度の医学的根拠があるのか。
まで確認すると、治療内容をより正確に理解できます。
治療を始める前に知っておきたいこと
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」は、科学的根拠に基づいて標準的な治療法を示す目的で作成されています。一方で、ガイドライン自身も、個々の患者さんに応じて柔軟に使用するものであり、すべての患者さんの治療を一律に決めるものではないとしています。また、この版で検討された文献は原則として2016年12月までに検索可能だった研究が中心です。そのため、ガイドラインの推奨度は治療を理解する非常に重要な基準ですが、実際の治療では現在の承認状況、最新の研究、安全性、本人の年齢や健康状態なども含めて判断する必要があります。
AGA・女性型脱毛症の治療は「何を使うか」を知ることから
2017年版ガイドラインを一般患者向けに読み解くと、最も大きなポイントは、薄毛治療をひとまとめに考えないことです。男性AGAではフィナステリド・デュタステリド・ミノキシジル外用が高く推奨される一方、女性では治療の選び方が異なります。また、同じミノキシジルでも外用と内服では推奨度がAとDに分かれています。薄毛治療を検討するときには、広告や治療名称だけではなく、「何を使う治療なのか」「ガイドラインではどのように評価されているのか」まで確認することが、自分に合った治療を考える第一歩になります。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
- CQ1 フィナステリドはAGA治療に有効?
- CQ2 デュタステリドはAGA治療に有効?
- CQ3 ミノキシジル外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
- CQ4 植毛術は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?自毛植毛と人工毛植毛の違い
- CQ5 LED・低出力レーザー照射はAGA・FAGAに有効?
- CQ6 アデノシン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ7 カルプロニウム塩化物外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
- CQ8 t-フラバノン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ9 サイトプリン・ペンタデカン外用はAGA・女性型脱毛症に有効?
- CQ10 ケトコナゾール外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ11 かつらの着用はAGA・FAGAに有用?
- CQ12 ビマトプロスト・ラタノプロスト外用はAGA・FAGAに有効?
- CQ13 成長因子導入・細胞移植療法はAGA・FAGAに有効?
- CQ14 ミノキシジル内服はAGA・FAGAに有効?
- 付録 ミノキシジル注射は薄毛治療に有効?外用・内服との違いを解説 ミノキシジルを頭皮へ注射する治療は、標準治療として確立している?
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