「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
CQ11 かつらの着用はAGA・FAGAに有用?ガイドライン「推奨度C1」をわかりやすく解説
髪を生やす治療ではないのに、なぜ診療ガイドラインに掲載されている?男性・女性で確認されたQOL改善効果、満足度との関係、薬物治療との違いまで解説します
AGA(男性型脱毛症)や女性型脱毛症の診療ガイドラインには、フィナステリドやミノキシジルなどの薬だけでなく、「かつら」についてもClinical Question(CQ)が設けられています。日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ11は、「かつらの着用は有用か?」という問いです。結論は、推奨度C1:かつら着用を行ってもよいです。「かつらを着けてもAGAそのものは治らないのに、なぜ治療ガイドラインに掲載されているの?」と思う方もいるでしょう。CQ11を理解するポイントは、脱毛症の治療目的を「髪を増やすこと」だけに限定しないことです。AGAや女性型脱毛症は生命に直接かかわる病気ではありませんが、外見上の変化によって、仕事、外出、人との交流、自信などに影響し、QOL(生活の質)が低下することがあります。2017年版ガイドライン自体も、脱毛が外見上の印象を大きく左右し、QOLに与える影響が大きいことをガイドライン作成の背景として説明しています。そのため、脱毛部分を目立たなくして生活上・心理上の負担を軽減することも、患者さんにとって意味のある対応としてCQ11で評価されています。
かつらはAGAを治すものではない
最初に明確にしておきたいのは、かつらにはAGAそのものを改善する作用はないということです。フィナステリドやデュタステリドのようにDHTの生成を抑えるわけではなく、ミノキシジルのように発毛を促すわけでもありません。つまり、AGAの進行を止める治療でも、毛髪を増やす治療でもありません。ガイドラインもCQ11の結論部分で、かつら着用は「脱毛症状を改善するものではない」ことを明確にしています。それでもC1とされる理由は、見た目を補うことでQOLが改善する可能性が臨床研究で確認されているためです。
「髪が増える」だけが脱毛症治療の成果ではない
AGA治療では一般に、
毛髪数が増えたか
毛が太くなったか
抜け毛が減ったか
といった項目が評価されます。しかし患者さんにとって重要なのは、毛髪の数値だけとは限りません。例えば薄毛によって、
「人の視線が気になる」
「外出したくない」
「写真を撮りたくない」
「仕事で人前に立つのが気になる」
「髪型ばかり気にしてしまう」
といった負担を感じることがあります。このような問題は、毛髪を完全に元通りにしなければ改善できないとは限りません。見た目を補う方法によって本人が薄毛を意識する時間が減り、日常生活を送りやすくなれば、それも患者さんにとって重要なメリットです。CQ11は、まさにこのQOLの改善を中心に評価しています。
ガイドラインではどのような研究が行われた?
2017年版ガイドラインでは、かつら着用の有用性について2件の症例集積研究を評価しています。対象は、男性26人と、女性20人です。いずれの研究も、かつらを使用する前と使用した後にアンケート調査を行い、患者さんのQOLがどのように変化したかを調べています。ただし、ランダム化比較試験ではありません。ここが、CQ11がAやBではなくC1となっている理由を考えるうえで重要です。
QOLはどうやって測ったの?
研究では、単純に、「かつらを使って良かったですか?」と聞いただけではありません。PIADS(Psychosocial Impact of Assistive Devices Scale)という尺度を使っています。日本語では「福祉用具心理評価スケール」などと訳される評価方法で、補助具を使うことによって人の心理・社会生活がどのように変化したかを測定します。主に、
| 評価項目 | 患者さん向けの意味 |
|---|---|
| Competence | 自分で物事に対応できるという感覚、効力感 |
| Adaptability | 状況に適応して行動できる感覚 |
| Self-esteem | 自尊感情、自分自身への肯定的な感覚 |
| Total score | これらを総合した心理・社会面の変化 |
といった観点から評価します。CQ11は、「髪が何本増えたか」ではなく、かつらを使うことで日常生活や心理面がどの程度変わったかを研究しているわけです。
男性26人ではQOLが有意に改善
男性26人を対象とした研究では、かつらの使用前後でPIADSを比較しています。使用前を0とした場合、使用後は、
Total score:30.77
Competence:1.25
Adaptability:1.167
Self-esteem:1.125
となり、いずれも統計学的に有意な改善が認められました。つまり男性AGA患者では、かつらを使用することで、
自信
日常生活への適応
自己評価
などを含むQOLが改善したことが示されています。髪そのものを生やしていなくても、患者さんが感じる生活上の困難を軽減できる可能性があるわけです。
見た目への満足度とも関係していた
男性の研究では、PIADSだけでなく、VAS(Visual Analog Scale)を使って、かつら使用による満足度の変化も評価しています。その結果、
PIADSの総合点
Competence
Adaptability
Self-esteem
のすべてが、VASで評価した満足度の変化と正の相関を示しました。簡単にいうと、かつらによる見た目への満足度が高まった人ほど、心理・社会的なQOLも改善する傾向があったということです。これは、脱毛症に対する外見上の対策が単なる「美容上の問題」だけではないことを示しています。
薄毛が進行している人ほどQOL改善が大きかった?
男性の研究では興味深い結果も報告されています。PIADSの、
Total score
Competence
Adaptability
Self-esteem
はいずれも、AGAの重症度を表すNorwood-Hamilton分類と正の相関を示しました。つまりこの研究では、AGAの程度が進んでいる男性ほど、かつらによるQOL改善が大きい傾向がみられました。これはある意味、理解しやすい結果です。薄毛が軽い段階では、髪型などでカバーできる方もいます。一方、脱毛が進行して外見上の変化が大きくなるほど、かつらによって得られる見た目の変化も大きくなり、それが心理面に影響した可能性があります。ただし、これは26人の症例集積研究で確認された相関関係です。「AGAが重症なら必ずかつらを使うべき」と結論づけるものではありません。
女性20人でもQOLが有意に改善
女性型脱毛症についても、20人を対象とした研究があります。使用前を0としてPIADSを評価すると、かつら使用後は、
Total score:32.55
Competence:1.221
Adaptability:1.242
Self-esteem:1.306
となり、いずれも統計学的に有意な改善が認められました。したがって女性型脱毛症でも、かつらの使用によって心理・社会面を含むQOLが改善する可能性が示されています。
女性では薄毛の重症度に関係なくQOLが改善
女性の研究では、男性とは少し異なる結果が得られています。PIADSと脱毛の重症度との間には相関が認められませんでした。つまり、薄毛が軽い女性でも、進行した女性でも、重症度とは関係なくQOL改善がみられたという結果です。これは女性型脱毛症を考えるうえで興味深い点です。見た目の悩みの大きさは、必ずしも医師が判断する脱毛症の重症度と一致しません。医学的には「軽度」の薄毛でも、その患者さんにとっては大きな悩みになっていることがあります。
「薄毛が軽いから気にしすぎ」とは言えない
CQ11から読み取れる重要な点の一つです。医師から見れば軽度の女性型脱毛症であっても、患者さん本人の心理的負担が軽いとは限りません。実際、女性を対象とした研究では、脱毛症の重症度とPIADSによるQOL改善との相関がありませんでした。したがって、「まだそんなに薄くないから、かつらは必要ない」と医療者側が一律に判断するものではありません。患者さん自身が、
「仕事中に気になってしまう」
「人と会うことが負担」
「髪型を気にせず生活したい」
と感じているのであれば、見た目を補う方法も選択肢になり得ます。
女性ではQOLが改善しても「満足度」とは一致しなかった
女性の研究にはもう一つ興味深い結果があります。PIADSで測定したQOLは有意に改善しましたが、VASで測定したかつらへの満足度の変化とは相関しませんでした。つまり、QOLが改善したことと、「かつらそのものに満足している」ことは必ずしも同じではなかったということです。ガイドラインも、女性では「QOLが向上しても満足度が高まる結果ではなかった」と整理しています。例えば、
「外出はしやすくなった」
「人目は気にならなくなった」
一方で、
「装着感が気になる」
「もっと自然な見た目がよい」
「髪型に制限がある」
ということは十分にあり得ます。生活上のメリットと製品そのものへの満足度は別の評価軸なのです。
なぜ推奨度C1なの?
かつら着用は男女ともQOL改善を示す結果が得られています。それでも推奨度はAやBではなく、C1=行ってもよいです。大きな理由は、エビデンスが2件の症例集積研究に限られているためです。2017年版ガイドラインでは、C1は一般に、質の高い大規模RCTなどではなく、複数の症例集積研究などを根拠とする場合に位置づけられています。つまり、
「かつらには意味がないからC1」
ではありません。むしろ、
QOL改善を示す研究はあるものの、研究数と研究デザインの点から、強く推奨するほどエビデンスが充実していない
という意味です。
かつらは「治療に失敗した人だけ」が使うもの?
そのように考える必要はありません。ガイドラインは結論部分で、かつらは脱毛症状そのものを改善するものではないものの、通常の治療によって改善しない場合または、QOLが低下している場合には、使用してもよいとしています。例えば薬物治療を始めても、毛髪の変化には通常数か月以上かかります。その期間、薬物治療を続けながら、外見についてはかつらで補うという考え方もできます。「薬か、かつらか」という二者択一ではありません。
フィナステリドやミノキシジルと一緒に使える?
役割がまったく異なるため、考え方として両立します。男性AGAの場合、
| 方法 | 主な目的 |
|---|---|
| フィナステリド | AGAの進行に関係するDHTを抑える |
| デュタステリド | AGAの進行に関係するDHTを抑える |
| ミノキシジル外用 | 毛髪の成長を促す |
| かつら | 現在の見た目を補い、QOL低下を軽減する |
薬物治療は数か月から年単位で毛髪の状態を改善・維持することを目的とします。一方、かつらは装着したその日から外見を変えることができます。つまり、治療効果が現れるまでの期間を補う方法として考えることもできます。
「かつらを使うとAGAが進行する」は本当?
2017年版ガイドラインで評価された男性26人、女性20人の研究では、かつら着用による副作用は特に報告されませんでした。したがって少なくともCQ11から、「かつらを着用するとAGAが悪化する」という結論を導くことはできません。ただし、実際の使用では装着方法や製品によって頭皮への負担は異なります。強く牽引する固定方法、蒸れ、接着剤などで皮膚トラブルが生じることは別途考える必要があります。「かつらそのもの」と、「特定の装着方法による頭皮刺激」は分けて考える必要があります。
かつらを使うと毛根が呼吸できなくなる?
「頭皮や毛根が呼吸できなくなるから、かつらは薄毛を進行させる」という説明を目にすることがありますが、毛包が空気から酸素を直接取り込んで「呼吸」しているわけではありません。毛包は血流から酸素や栄養を受けています。したがって、「かつらで頭皮を覆う=毛根が窒息してAGAが進行する」という理解は適切ではありません。一方で、汗や皮脂がたまりやすくなったり、接着剤などで皮膚炎が起こったりする場合はありますので、頭皮状態に合わせた管理は必要です。
医療用ウィッグでなければ意味がない?
CQ11で評価している中心的なアウトカムはQOLです。そのため、患者さんが外見上の悩みを軽減できることが重要であり、「医療用」という名称だけで効果が決まるものではありません。実際に選ぶ際には、
自然な見た目
装着感
通気性
重量
固定方法
日常の手入れ
費用
なども重要になります。AGA・女性型脱毛症は長期間続くことがあるため、「購入時に自然に見えたか」だけでなく、日常的に無理なく使えるかも考える必要があります。
「増毛」「かつら」「植毛」はまったく別
特に混同しやすいのがCQ4の植毛との違いです。自毛植毛は、自分の後頭部などの毛包そのものを薄毛部分へ移植する外科手術です。かつらは頭皮の外側に装着するもので、毛包を移植するわけではありません。また、市販サービスでいう「増毛」には、自分の毛髪へ人工毛を結び付ける方法などさまざまなものがあります。したがって、
自毛植毛
人工毛植毛
かつら
増毛サービス
は、それぞれ別の方法です。CQ11のC1という評価を、そのまま「増毛」「人工毛植毛」などすべてに当てはめることはできません。特にCQ4では、人工毛植毛はD=行うべきではないと評価されているため、明確に区別する必要があります。(日本皮膚科学会)
かつらを使い始めたらAGA治療をやめてもよい?
かつらはAGAそのものを治療するものではありません。したがって、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなどでAGAを治療している場合、「見た目が改善したからAGAも治った」と考えて治療を中止するものではありません。かつらで外見上の状態を補いながら、AGAそのものについては別に治療することができます。反対に、治療効果、副作用、費用、本人の希望などを考えたうえで、薬物治療を積極的に希望せず、かつらによる外見上の改善を選択するという考え方もあります。大切なのは、本人が何を治療目標としているかです。
「髪を生やさなければ治療の意味がない」と考えなくてもよい
AGA・女性型脱毛症では、治療によって元の毛量まで完全に戻るとは限りません。特に脱毛が進行した場合には、薬物治療によって進行を抑えることができても、希望する外見まで回復しないことがあります。そのような場合に、
薬をさらに増やす
根拠の乏しい治療を次々と試す
高額な自由診療を繰り返す
ことだけが選択肢ではありません。CQ11は、外見を補うという別の方法でもQOLを改善できる可能性があることを示しています。これは患者さんにとって、かなり重要なメッセージです。
CQ11についてよくある疑問
| よくある疑問 | 患者さん向けの答え |
|---|---|
| かつらはガイドラインに載っている? | CQ11として掲載され、C1=行ってもよい |
| AGAが治る? | いいえ。脱毛症そのものを改善する治療ではない |
| では何が改善する? | QOLや心理・社会面の負担の改善が期待できる |
| 男性でも研究されている? | 男性26人の症例集積研究でQOLが有意に改善 |
| 女性でも研究されている? | 女性20人でもQOLが有意に改善 |
| 重症でなければ意味がない? | 女性では重症度に関係なくQOL改善がみられた |
| 満足度も必ず上がる? | 女性研究ではQOL改善と満足度は一致しなかった |
| 副作用は? | ガイドラインで評価した2研究では特に報告なし |
| 薬と併用できる? | 役割が違うため両立する |
| 人工毛植毛と同じ? | まったく別。人工毛植毛はCQ4でD |
CQ11から分かること―脱毛症治療では「QOLを取り戻す」ことも重要
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ11では、かつらの着用:推奨度C1=行ってもよいと評価されています。かつらには、フィナステリドのようにAGAの進行を抑えたり、ミノキシジルのように発毛を促したりする作用はありません。ガイドライン自身も、かつらは脱毛症状そのものを改善する方法ではないと明記しています。それでもガイドラインにCQとして掲載されているのは、脱毛症によって低下したQOLを改善する可能性があるからです。男性26人の研究では、かつら使用後にPIADSで測定したQOLが有意に改善し、見た目への満足度とも関連しました。女性20人の研究でもQOLは有意に改善し、女性では脱毛症の重症度にかかわらず改善がみられました。両研究とも、かつら着用による副作用は特に報告されていません。一方、エビデンスは2件の症例集積研究に限られているため、評価はAやBではなくC1です。CQ11を患者さん向けに一言で整理するなら、
「かつらは髪を生やす治療ではない。しかし、薄毛によって低下した生活の質や心理的な負担を改善する方法として、医学的にも一定の意味が認められている」
ということになります。AGA・女性型脱毛症では、治療目標を必ずしも「髪を元通りにすること」だけに設定する必要はありません。薬物治療によってAGAの進行を抑えながらかつらを利用することもできますし、治療による負担と得られる効果を考えたうえで、外見を補う方法を選ぶこともできます。
「髪を何本増やせるか」と同じように、「薄毛を気にせずどのように生活できるか」も治療を考えるうえで大切な指標です。
※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ11を中心に、一般患者向けに整理したものです。ガイドラインでは、通常の治療で改善しない場合やQOLが低下している場合に、かつら着用を行ってもよいとしています。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
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