「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
CQ9 サイトプリン・ペンタデカン外用はAGA・FAGAに有効?ガイドライン「推奨度C1」をわかりやすく解説
育毛剤に使われてきたサイトプリン(CTP)とペンタデカン酸グリセリド(PDG)はどこまで期待できる?男性AGAの比較試験、女性の研究結果、ミノキシジルなどとの位置づけの違いを解説します
AGA(男性型脱毛症)の外用治療には、ミノキシジルのほかにもさまざまな成分があります。日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、CQ9として、「サイトプリンおよびペンタデカンの外用は有用か?」というClinical Questionが設定されています。結論は、推奨度C1:行ってもよいです。
ガイドラインでは、サイトプリンについて男性型脱毛症を対象としたランダム化比較試験が1件、ペンタデカンについて男性型脱毛症のランダム化比較試験が1件、女性型脱毛症の症例集積研究が1件あると整理しています。そのうえで、発毛効果を示す「弱い根拠」があり、副作用が軽微であることも考慮してC1としています。ここで重要なのは、C1は「効果がない」という意味ではない一方、ミノキシジル外用のAや、男性AGAに対するアデノシンのBほど強い医学的根拠があるわけではないという点です。
サイトプリンとは?
CQ9に登場する「サイトプリン」は、研究論文では6-Benzylaminopurine(6-ベンジルアミノプリン:CTP)として扱われています。1998年に報告された臨床研究では、0.5%CTPを配合した育毛剤が男性の頭髪にどのような影響を与えるかが検討されました。原著では男性86人をCTP群43人、プラセボ群43人に分けた盲検比較試験として報告されています。 (CiNii Research)
サイトプリンは、植物の細胞分裂などに関係するサイトカイニン系の化合物として知られる6-ベンジルアミノプリンを利用した育毛成分です。ただし、「細胞に作用する成分だから毛包を再生できる」といった意味ではありません。CQ9が評価しているのは、実際に人の頭皮へ外用したとき、毛髪や抜け毛の状態が改善するかどうかです。
ペンタデカンとは?
CQ9では「ペンタデカン」と表記されていますが、実際の臨床試験で使用されているのは主に2.5%ペンタデカン酸グリセリド(PDG:glyceride of pentadecanoic acid)を含む育毛剤です。ペンタデカン酸は炭素数15の脂肪酸です。基礎研究では、ペンタデカン酸グリセリドが毛包でのエネルギー代謝へ影響する可能性が研究されており、毛包のATP産生との関係などが報告されています。もっとも、これは作用機序を探る基礎研究であり、「ATPが増えるからAGAに効く」と臨床効果を直接証明したものではありません。 (Wiley Online Library) 患者さんにとっては、「ペンタデカン」という名称そのものより、実際に臨床試験で使用されたのはPDGを配合した育毛剤だったと理解しておくことが重要です。
サイトプリンは男性AGAでどのくらい効果があった?
2017年版ガイドラインでは、0.5%サイトプリン(CTP)配合育毛剤を16週間使用したランダム化比較試験を根拠として取り上げています。16週間後の改善率は、「硬毛疎」の状態ではCTP群19%、対照群5%。「軟毛」の状態ではCTP群14%、対照群0%でした。さらに毛髪と頭皮所見を総合した評価で「軽度改善以上」とされた割合は、
CTP群:30%
対照群:7%
でした。つまり、対照群と比べるとCTP配合育毛剤を使用したグループで改善例が多かったことになります。
「30%に効いた」という意味?
少し注意が必要です。この30%は、研究で設定された毛髪・頭皮所見の総合評価で「軽度改善以上」とされた割合です。「30%の人に髪が大量に生えた」という意味ではありません。原著論文ではさらに「有用度」という別の評価も行われており、「やや有用以上」はCTP群47%、プラセボ群7%でした。つまり、同じ研究でもどの評価項目を使うかによって数字が異なります。 (J-STAGE) AGA治療の臨床試験を見る際には、「○%に効果」という数字だけではなく、何をもって効果と判定したのかを確認することが大切です。
サイトプリンで抜け毛も減った?
この試験では、洗髪時に抜けた毛髪を集めて、その本数についても調べています。16週間後には、脱落毛の総数と直径40μm以上の脱落毛数がCTP群、対照群とも治療開始前より減少しました。ただし、統計学的に有意な減少が認められたのはCTP群だけでした。したがって、サイトプリンについては見た目の評価だけではなく、抜け毛の減少についても一定の結果が得られています。とはいえ、この研究だけで「サイトプリンには抜け毛を確実に止める作用がある」と断定することはできません。
8週間より16週間のほうが改善していた
原著研究では、CTP群でみられた改善は、外用開始8週間後より16週間後のほうが多くなる傾向がありました。 (CiNii Research) つまりサイトプリンも、数日使用して結果を判断するタイプの育毛成分ではありません。毛髪には毛周期があるため、外用治療による変化を評価するには一定期間が必要です。ただし、16週間という研究期間から「4か月使えば必ず効果が分かる」と保証することもできません。あくまで、この研究が16週間という条件で行われたという意味です。
ペンタデカン酸グリセリド(PDG)は男性AGAに有効?
ペンタデカンについては、2.5%ペンタデカン酸グリセリド(PDG)含有育毛剤を使用した男性型脱毛症のランダム化比較試験が根拠となっています。2017年版ガイドラインでは、男性75人を対象として24週間観察した試験について、「やや有効以上」と評価された割合を、
PDG群:76%
対照群:32%
と紹介しています。PDG群は対照群より有意に高い結果でした。数字だけを見るとかなり高い改善率に見えますが、ここでも「76%の人に大量の髪が生えた」という意味ではありません。研究で設定された脱毛状態や毛髪所見などを含む有用性評価で「やや有効以上」と判定された割合です。
サイトプリンの30%とPDGの76%を比べて「PDGのほうが効く」と考えてよい?
これはできません。サイトプリンとPDGでは、
研究対象者
評価期間
使用した製剤
評価項目
「改善」「有効」の判定方法が異なります。サイトプリンの「軽度改善以上30%」と、PDGの「やや有効以上76%」を横に並べて、「PDGはサイトプリンの2倍以上効く」と解釈するのは不適切です。ガイドラインも両者の直接比較によって優劣を判定しているわけではありません。臨床試験の「○%」は、同じ基準・同じ条件で比較された場合に初めて単純比較しやすくなります。
女性型脱毛症ではPDGの研究がある
女性については、サイトプリンの臨床試験は2017年版作成時点ではありませんでした。一方、PDGについては、女性33人を対象とした6か月間の症例集積研究があります。使用されたのは、
2.5%ペンタデカン酸グリセリド(PDG)
+0.2%酢酸トコフェロール
を含む育毛剤です。この研究では、抜け毛、軟毛の発生、軟毛から硬毛への変化などを評価しています。
女性33人の研究では79%が「軽度改善以上」
ガイドラインによると、女性33人を6か月観察した研究では、毛髪所見に基づく総合評価で、軽度改善以上:79%でした。さらに個別の評価では、
| 評価項目 | 軽度改善以上 |
|---|---|
| 洗髪時などの抜け毛量 | 76% |
| 軟毛の発生 | 64% |
| 軟毛から硬毛への変化 | 76% |
| 毛髪外径増加率 | 4.1% |
と報告されています。
一見すると非常に良好な結果です。
しかし、この研究を読むときには大きな注意点が2つあります。
女性の79%という数字には注意が必要
第一に、この研究はランダム化比較試験ではなく症例集積研究です。つまり、治療を受けた女性33人を観察した研究であり、同時期にプラセボを使用した対照群との比較ではありません。そのため、79%という改善率だけから「PDGによって79%が改善した」と因果関係を確定することはできません。2017年版ガイドラインも女性については症例集積研究として評価しています。第二に、この製剤にはPDGだけでなく0.2%酢酸トコフェロールも配合されています。したがって、観察された効果のすべてをPDGだけに帰属させることもできません。
サイトプリンは女性型脱毛症にも効く?
2017年版ガイドラインでは、女性型脱毛症に対するサイトプリンの臨床試験は実施されていないと明記されています。したがって、「CQ9がC1だから、サイトプリンは男女とも同じ程度に有効性が証明されている」という理解は正しくありません。男性ではランダム化比較試験がありますが、女性について同じレベルの根拠はありません。これはCQ9の推奨度を読む際に特に重要なポイントです。
それでもなぜC1なの?
ガイドラインはCQ9の結論として、サイトプリンとペンタデカンについて、発毛効果に有効性を示す弱い根拠があると評価しています。そして、副作用が軽微であることも考慮し、これらを含む育毛剤の外用療法を行ってもよいとしてC1を付けています。つまりC1になった理由は、効果が証明されていないから仕方なく許容したという意味でも、十分な効果が確立しているという意味でもありません。患者さん向けには、効果を示唆する比較試験は存在するが、研究数・規模・質を総合すると、標準治療ほど強い根拠には達していない
と理解するのが適切です。
「RCTがあるのにC1」なのはなぜ?
ここはCQ9の興味深いところです。ガイドラインの一般的な基準では、ランダム化比較試験は比較的高いエビデンスレベルに位置づけられます。しかし、RCTが1件あれば自動的にAやBになるわけではありません。研究の、
規模
質
再現性
評価方法
研究数
などを総合して推奨度は判断されます。2017年版ガイドライン自身も、推奨度はエビデンスレベルだけで機械的に決定するのではなく、この分野のエビデンス量や国内事情などを含めて委員会で決定したと説明しています。CQ9は、「RCTがある」ことと「十分に確立した標準治療である」ことは同じではないことをよく示しています。
ミノキシジル外用との違いは?
CQ3のミノキシジル外用は推奨度Aです。男性型脱毛症・女性型脱毛症とも、多数のランダム化比較試験やシステマティックレビューによる発毛効果の根拠があります。一方、CQ9ではサイトプリン・ペンタデカンはC1です。これまでのCQを並べると、その位置づけが分かりやすくなります。
| 外用治療 | 2017年版の推奨度 |
|---|---|
| ミノキシジル | A |
| アデノシン | B(男性)/C1(女性) |
| カルプロニウム塩化物 | C1 |
| t-フラバノン | C1 |
| サイトプリン・ペンタデカン | C1 |
したがって、「サイトプリンやPDGを配合しているから、ミノキシジルと同じレベルのAGA治療」という意味ではありません。2017年版ガイドラインでは明確に推奨度が異なります。
フィナステリド・デュタステリドとは役割が違う
男性AGAでは、フィナステリドやデュタステリドがDHTの生成を抑え、AGAの進行過程へ働きかけます。CQ9で評価されているサイトプリンやPDGは、これらとは異なる外用成分です。したがって、「育毛剤を使用しているからDHTも抑えられている」ということにはなりません。男性AGAの場合には、
AGAの進行要因を抑える治療なのか
毛髪の成長を促す外用治療なのか
補助的な育毛成分なのか
を分けて考えると、各治療の位置づけを理解しやすくなります。
「育毛剤」と「AGA治療薬」は同じではない
CQ9では「サイトプリン・ペンタデカンの外用を行ってもよい」とされていますが、ガイドライン本文でもこれらは「育毛剤」として扱われています。患者さんにとっては、
「育毛剤」
「発毛剤」
「AGA治療薬」
という言葉が似て見えるかもしれません。しかし、臨床的な位置づけは同じではありません。例えばミノキシジル外用にはAGA・女性型脱毛症を対象とした多数の比較試験があります。フィナステリド・デュタステリドには男性AGAの進行を抑える内服治療として強い根拠があります。一方、サイトプリンやPDGは、一定の臨床試験結果はあるものの、エビデンスの量・確実性からC1に位置づけられている成分です。
「配合されているだけ」でガイドラインC1と考えてよい?
これにも注意が必要です。サイトプリンについてガイドラインが評価した研究では0.5%CTP配合育毛剤が使用されています。ペンタデカンでは2.5%PDG含有育毛剤が主な研究対象です。女性の研究ではさらに0.2%酢酸トコフェロールが配合されていました。したがって、
「サイトプリン配合」
「ペンタデカン配合」
と商品に書かれているだけで、どの濃度・どの製剤でもCQ9の研究と同じ結果が期待できるとはいえません。成分の濃度、製剤、使用期間、使用方法が研究条件と異なれば、臨床試験の結果をそのまま当てはめることはできません。
副作用は少ない?
CQ9では、ガイドラインがC1とした理由の一つとして、副作用が軽微であることを挙げています。CTPの原著研究では、比較試験に参加したCTP群・プラセボ群とも副作用は認められなかったと報告されています。女性33人のPDG配合製剤の研究でも、有害事象は認められなかったとされています。 (J-STAGE) ただし、これは、「サイトプリンやPDGを含むすべての製品で副作用が絶対に起こらない」という意味ではありません。外用製品では、目的成分だけでなく基剤、アルコール、香料など別の配合成分によって刺激や皮膚症状が生じる可能性もあります。
「安全性が高いなら、まずC1の育毛剤から」でよい?
必ずしもそうとは限りません。ガイドラインの推奨度は、患者さんが上から順番に試すための単純なランキングではありませんが、治療の医学的根拠を比較する重要な目安になります。男性AGAについて、
フィナステリドA
デュタステリドA
ミノキシジル外用A
が存在するなかで、サイトプリン・ペンタデカンはC1です。そのため、AGAと診断された方が「医学的根拠のより確立した治療を希望する」のであれば、A評価の治療を含めて検討するのが自然です。一方、内服薬を希望しない、特定の外用薬が使用できないなど、患者さんごとの事情によってC1の治療を選択肢として検討する余地があります。
女性の場合は特にエビデンスの違いを理解する
女性型脱毛症ではCQ9の根拠がさらに限定的です。サイトプリンについては女性の臨床試験がありません。PDGについては女性33人・6か月の研究がありますが、ランダム化比較試験ではなく症例集積研究であり、しかもPDG単独ではなく酢酸トコフェロールとの配合剤です。一方、女性型脱毛症に対するミノキシジル外用はCQ3で推奨度Aです。したがって女性では、「どちらも外用の育毛成分だから同じ」と考えず、臨床研究の厚みにかなり差があることを理解しておくとよいでしょう。
CQ9についてよくある疑問
| 疑問 | 患者さん向けの答え |
|---|---|
| サイトプリン・ペンタデカンはAGAに使える? | C1=行ってもよい |
| C1は「効果なし」? | いいえ。有効性を示す弱い根拠がある |
| サイトプリンとは? | 臨床研究では6-ベンジルアミノプリン(CTP)を使用 |
| CTPは男性で研究されている? | 0.5%配合製剤の16週間の比較試験がある |
| CTPの改善率は? | 総合評価で軽度改善以上30%、対照7% |
| PDGは男性で研究されている? | 2.5%製剤の24週間RCTがある |
| PDGの有用率は? | やや有効以上76%、対照32% |
| 女性にも研究がある? | PDGは33人の症例集積研究あり。CTPは女性の臨床試験なし |
| 女性の79%改善は確実な効果? | 対照群のない研究なので慎重な解釈が必要 |
| ミノキシジルと同等? | そのようには評価されていない。ミノキシジル外用はA |
CQ9から分かること―「効果を示す研究はある」が「標準治療と同じ」ではない
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ9では、サイトプリン・ペンタデカン外用:推奨度C1=行ってもよいとされています。サイトプリンについては、0.5%CTPを使用した男性の比較試験で、16週間後の毛髪・頭皮所見の「軽度改善以上」が30%、対照群7%でした。また、脱落毛数についてもCTP群で有意な減少が確認されています。ペンタデカンについては、2.5%ペンタデカン酸グリセリド(PDG)を使用した男性の24週間の試験で、「やや有効以上」が76%、対照群32%でした。女性33人を対象とした6か月の研究でも79%が軽度改善以上とされていますが、こちらは対照群を設定しない症例集積研究であり、酢酸トコフェロールを含む配合剤であることにも注意が必要です。こうした結果を総合して、ガイドラインは「有効性を示す弱い根拠がある」と評価しています。副作用が軽微だったことも考慮し、「行ってもよい」というC1になりました。患者さん向けに一言でまとめるなら、
「サイトプリンやペンタデカン酸グリセリドには、AGAや薄毛の改善を示した臨床研究がある。しかし研究は少なく、ミノキシジルなどの標準治療ほど医学的根拠が確立しているわけではない」
という位置づけです。AGA・女性型脱毛症の治療や育毛剤を選ぶときには、単に「ガイドライン掲載成分」と書かれているかどうかではなく、推奨度がA・B・C1のどこなのか、どの濃度で何人を対象にどのような研究が行われたのか、男性と女性のどちらにデータがあるのかまで確認すると、より正確に治療の価値を判断できます。
※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ9を中心に一般患者向けに整理したものです。ガイドラインでは、サイトプリンとペンタデカンの発毛効果について「有効性を示す弱い根拠」があると評価しています。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
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- CQ3 ミノキシジル外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
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- CQ5 LED・低出力レーザー照射はAGA・FAGAに有効?
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- CQ7 カルプロニウム塩化物外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
- CQ8 t-フラバノン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ9 サイトプリン・ペンタデカン外用はAGA・女性型脱毛症に有効?
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