「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
CQ5 LED・低出力レーザー照射はAGA・FAGAに有効?ガイドライン「推奨度B」をわかりやすく解説
薬を使わない薄毛治療としてどこまで期待できる?LED・低出力レーザーで確認された発毛効果、治療期間、副作用、「光を当てれば何でも同じ」ではない理由まで解説します
AGA(男性型脱毛症)や女性型脱毛症の治療というと、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなどの薬物治療がよく知られています。一方で近年は、頭皮に光を照射するLED治療や低出力レーザー治療を目にする機会も増えています。
「光を当てるだけで本当に髪が増えるの?」
「レーザーという名前だけれど痛くないの?」
「家庭用のLED機器でも同じなの?」
「薬より安全なら、こちらだけで治療できる?」
と疑問に感じる方もいるでしょう。日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、CQ5として、「LEDおよび低出力レーザー照射は有用か?」というClinical Questionを設定しています。その結論は、推奨度B:行うよう勧めるです。男性型脱毛症・女性型脱毛症の双方について、複数の比較試験で発毛効果が確認され、副作用も比較的軽微だったことから、この評価になっています。
まず「推奨度B」とはどういう意味?
CQ1のフィナステリド、CQ2のデュタステリド、CQ3のミノキシジル外用は、男性AGAについて推奨度Aでした。それに対して、LED・低出力レーザーはBです。2017年版ガイドラインでは、
A:行うよう強く勧める
B:行うよう勧める
と区別しています。Bは「効果がない」「あまり勧められない」という意味ではありません。一定の有効性を示す医学的根拠があり、実際の診療で選択肢として勧められる治療です。ただし、Aに分類されている治療ほどエビデンスが強固ではない、あるいは研究条件や機器などにまだばらつきがある、と理解すると分かりやすいでしょう。
LED・低出力レーザー治療とは?
低出力レーザー治療は、英語ではLow-Level Laser Therapy、あるいはLow-Level Light Therapyなどと呼ばれ、強い熱で組織を焼いたり切ったりするレーザー治療とは異なります。AGA治療で研究されているのは、赤色光を中心とした比較的低出力の光を頭皮へ照射する方法です。美容医療で「レーザー」と聞くと、
「皮膚を削るのでは?」
「熱くないの?」
「脱毛レーザーと逆では?」
と思う方もいるかもしれません。しかし、AGA治療で検討されている低出力レーザーは、レーザー脱毛や皮膚治療に使用する高出力レーザーとは目的も出力も異なります。毛包周囲へ低出力の光刺激を与えることで、毛髪の成長を促す方向へ作用することが期待されています。
なぜLEDやレーザーで髪が増えるの?
LED・低出力レーザーによる発毛の仕組みについては研究が続いており、薬のように一つの作用だけで説明できるものではありません。一般的には、赤色光などの光刺激によって毛包周囲の細胞活動に影響を与え、毛髪が成長する環境を整えたり、成長期の毛髪を増やしたりする可能性が考えられています。重要なのは、頭皮を強く加熱して発毛させる治療ではないという点です。
「熱ければ熱いほど効く」
「光が強ければ強いほど生える」
というものではありません。ガイドラインで評価されているのは、一定の波長・出力・照射頻度を設定した機器を用いた臨床試験です。
ガイドラインではどのくらい研究されている?
2017年版ガイドラインでは、LEDおよび低出力レーザーについて、
男性型脱毛症:4件のランダム化比較試験+1件の非ランダム化比較試験
女性型脱毛症:3件のランダム化比較試験
が検討されています。つまり、「光を当てたらなんとなく良かった」という体験談だけで評価された治療ではありません。実際に治療機器を使用したグループと対照群を比較し、毛髪数などがどう変化したかを調べた研究があります。これが推奨度Bとされた重要な理由です。
男性AGAではどのくらい毛髪が増えた?
ガイドラインでは、男性110人を対象として655nmの低出力レーザーを週3回、26週間照射したランダム化比較試験が紹介されています。26週間後の毛髪数は、
| グループ | 毛髪数の変化 |
|---|---|
| 低出力レーザー群 | +19.8本/cm² |
| コントロール群 | -7.6本/cm² |
でした。レーザー照射群では治療開始前と比べて毛髪数が増えた一方、対照群では減少していました。これは低出力レーザーに発毛効果が期待できることを示す、ガイドライン上の重要な研究の一つです。
「19.8本増えた」は頭全体で約20本という意味?
違います。ここでいう19.8本/cm²は、研究で設定した測定部位について、1平方センチメートルあたりの毛髪密度を比較した数字です。「頭全体で20本しか増えない」という意味ではありません。反対に、「低出力レーザーを使えば誰でも1cm²あたり19.8本増える」と保証する数字でもありません。臨床試験の平均値であり、実際の効果には個人差があります。
女性型脱毛症でも効果は確認されている?
はい。CQ5では男性AGAだけでなく、女性型脱毛症についても有効性を示す研究が評価されています。女性122人を対象とした26週間のランダム化比較試験では、週3回のレーザー照射が行われています。使用されたのは、9-beam・655nmの機器と、12-beam・635nm+655nmの機器でした。26週間後の成長期毛の増加は、
| 使用機器 | レーザー群 | コントロール群 |
|---|---|---|
| 9-beam | +20.2本/cm² | +2.8本/cm² |
| 12-beam | +20.6本/cm² | +3.0本/cm² |
となり、レーザー群で有意な増加が確認されています。同じ研究では男性についても、レーザー照射群で有意な毛髪増加が確認されました。
CQ5は男女共通で「B」
CQ1・CQ2では男女で推奨度が大きく違いました。
フィナステリドは、
男性A・女性D
デュタステリドも、
男性A・女性D
です。
一方、LED・低出力レーザーについてCQ5では男女を分けた異なる推奨度は設定されておらず、推奨度Bとされています。そのため、薬物治療の選択肢が男性とは異なる女性型脱毛症にとっても、光を利用した治療は検討可能な選択肢の一つになります。
どのくらい続ければ効果が分かる?
ガイドラインで代表的に紹介されている試験は26週間です。およそ半年です。週3回照射した研究で毛髪数の増加が確認されているため、低出力レーザーも、「1週間使って髪が増えるかを見る」ような治療ではありません。毛髪には毛周期があるため、発毛効果を判断するには一定期間が必要です。これはフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジル外用などのAGA治療と共通しています。
毎日照射すればもっと効く?
そうとは限りません。代表的な試験で使用された条件は週3回です。ここで重要なのは、照射回数を増やせば、それに比例して髪が増えることが確認されているわけではないということです。光を利用した治療では、
波長
出力
照射時間
照射頻度
光源
機器の構造
などが治療条件になります。自己判断で長時間照射したり、必要以上に頻度を増やしたりすることが、有効性を高めるとは限りません。
副作用はある?
ガイドラインでは、LED・低出力レーザーについて副作用は比較的軽微と評価しています。男性110人を対象とした655nm低出力レーザーの試験では、
軽度の照射部の異常知覚:4例
軽度の蕁麻疹:4例
が報告されました。また、男女を対象とした別の研究では、
| 症状 | 発生率 |
|---|---|
| 照射部の皮膚乾燥 | 5.1% |
| かゆみ | 2.5% |
| 圧痛 | 1.3% |
| ひりつき | 1.3% |
| 温熱感 | 1.3% |
でした。
こうした結果を踏まえ、ガイドラインでは、発毛効果を支持する十分な根拠があり、副作用も比較的軽微であるとして、LED・低出力レーザー照射を推奨しています。
「副作用が軽い」=誰でも安全?
ここは区別する必要があります。臨床試験で副作用が比較的軽微だったことと、どのようなLED・レーザー機器でも安全であることは同じではありません。ガイドラインもCQ5の最後で、非常に重要な注意点を示しています。2017年版作成時点では、研究で用いられた機器が国内で認可されておらず、さらに、
光源の種類
波長
出力
が研究によってさまざまであることを指摘しています。このためCQ5の結論は、「光なら何でも発毛する」ではありません。ガイドラインは「適切な機材を使用して行う」ことを前提にBと評価しています。
「赤色LEDなら何でもAGAに効く」と考えてよい?
考えるべきではありません。例えば、部屋の赤色照明を頭皮に当てても、臨床試験で確認された治療と同じ条件にはなりません。同じ「赤い光」に見えても、
波長が何nmなのか
どの程度の出力なのか
頭皮までどの程度のエネルギーが届くのか
何分間照射するのか
週に何回使用するのか
によって条件は変わります。2017年版ガイドラインに掲載された代表的な臨床試験では、635nmや655nm付近の光が使われています。しかし、ここから、
「655nmと表示された製品なら全部ガイドライン推奨」
と読み替えることもできません。波長は治療条件の一つにすぎないからです。
家庭用LED・レーザー機器もガイドラインB?
ここは注意したいポイントです。2017年版ガイドラインが「B」と評価しているのは、LEDおよび低出力レーザー照射という治療法について、特定の条件・機器を使った臨床試験を総合した結果です。したがって、市販されている家庭用機器一つひとつについて、「日本皮膚科学会が推奨度Bを付けている」という意味ではありません。同じLEDやレーザーを名乗っていても、機器によって仕様は異なります。家庭用機器を検討するときには、少なくとも、
どの波長を使用しているのか
出力はどの程度なのか
ヒトのAGA・女性型脱毛症を対象とした試験があるのか
その研究がその製品そのもので行われたものなのか
を分けて確認することが重要です。
「医療機関で使っているからガイドライン準拠」とも限らない
同じ考え方は医療機関にも当てはまります。クリニックで、
「LED発毛治療」
「レーザー育毛」
「光発毛療法」
などの名称で治療が提供されていたとしても、名称だけではCQ5の臨床試験と同じ治療なのか判断できません。確認したいのは治療名称よりも、
どの機器を使うのか
LEDなのかレーザーなのか
波長は何nmなのか
出力はどの程度なのか
照射頻度はどうなっているのか
その機器自体にどのような臨床データがあるのか
という具体的な内容です。「低出力レーザーはガイドラインB」という一文だけを使って、すべての光照射治療を同じように評価することは適切ではありません。
LEDとレーザーではどちらが優れている?
CQ5ではLEDと低出力レーザーの双方を対象として評価しています。しかし、このガイドラインから、「LEDよりレーザーのほうが優れている」あるいは、「レーザーよりLEDのほうが安全である」という順位を決めることはできません。実際、ガイドライン自身が使用されている光源の種類、波長、出力が研究によってさまざまであることを注意点として挙げています。患者さんが機器を比較するときには、「LEDかレーザーか」という名称だけでなく、実際の臨床試験データを見るほうが重要です。
フィナステリドやミノキシジルより効果が高い?
ここもCQ5を読む際に注意が必要です。ガイドライン上では、
| 治療 | 推奨度 |
|---|---|
| フィナステリド内服(男性) | A |
| デュタステリド内服(男性) | A |
| ミノキシジル外用 | A |
| LED・低出力レーザー | B |
です。したがって、ガイドライン上のエビデンスの強さでは、男性AGAの主要な薬物治療より一段低い位置づけです。ただし、Aの薬は必ずBの治療より多く髪が生えるという意味ではありません。推奨度は単純な「発毛力ランキング」ではなく、研究の質や量、安全性などを総合して決められています。
薬を使いたくない人ならLEDだけでよい?
LED・低出力レーザーは薬物を体内に取り込む治療ではないため、薬を避けたい方にとって魅力的に感じられることがあります。実際、ガイドラインでも一定の発毛効果を認め、Bと評価しています。ただし、男性AGAの場合には、AGAの進行に関わるDHTそのものを抑えるフィナステリドやデュタステリドとは作用する方向が異なります。したがって、「レーザーを照射しているからAGAの原因となるDHTへの対策は不要」とはいえません。どの治療を単独で行うか、併用するかは、薄毛の程度や治療目的、副作用への考え方などによって判断します。
ミノキシジル外用との併用は?
ミノキシジル外用とLED・低出力レーザーも、作用する仕組みが完全に同じではありません。そのため実臨床では複数の治療を組み合わせる考え方もあります。ただし、CQ5そのものは「すべての患者がミノキシジルとレーザーを併用すべき」と評価したものではありません。ガイドラインの推奨度を読むときには、一つの治療法の有用性と、特定の組み合わせ治療の有用性を分けることが重要です。
「発毛サロンのLED」も同じ?
必ずしも同じではありません。AGA関連サービスでは、
「赤色LED」
「育毛光線」
「光スカルプケア」
など、さまざまな名称が使用されています。しかし、CQ5の推奨度Bを根拠として扱うには、そのサービスがガイドラインで評価された研究条件とどこまで対応しているかを見る必要があります。単に「LEDを使用している」というだけで、医学的な発毛治療と同等とは判断できません。特に、
機器名や波長が示されていない
出力が分からない
臨床試験が示されていない
AGAではなく「頭皮環境改善」のデータしかない
といった場合には、CQ5の研究結果をそのまま当てはめるべきではありません。
「レーザーだから毛根が復活する」という説明にも注意
AGAが長期間進行し、毛包が高度にミニチュア化している場合には、どの治療でも改善には限界があります。低出力レーザーについても、完全に毛包が失われた場所に新しい毛包を作り出す治療としてガイドラインが評価しているわけではありません。フィナステリドやミノキシジルと同じように、AGAの状態や治療開始時期によって反応には個人差があります。
「毛根を100%復活させる」
「光を当てれば失われた毛根が再生する」
といった単純な説明とは分けて考える必要があります。
CQ5についてよくある疑問
| よくある疑問 | 患者さん向けの答え |
|---|---|
| LED・低出力レーザーはAGAに効く? | ガイドライン推奨度B |
| 女性型脱毛症にも使える? | 女性を対象としたRCTでも毛髪増加が確認されている |
| どのくらいで判断する? | 代表的研究は週3回・26週間 |
| 655nmなら何でも同じ? | いいえ。波長だけでなく出力や機器仕様も重要 |
| 家庭用製品も全部B? | いいえ。個々の製品まで一律にBという意味ではない |
| 強く照射すれば効く? | 強さや回数を増やせば比例して効くという根拠はない |
| 痛みはある? | 研究では皮膚乾燥、かゆみ、圧痛、ひりつきなどが少数報告 |
| 薬より効く? | 単純比較はできない。主要薬物治療はガイドラインA |
| フィナステリドの代わりになる? | 作用が異なるため単純な置き換えとはいえない |
| LEDとレーザーはどちらがよい? | CQ5から優劣を決めることはできない |
CQ5で特に重要なのは「適切な機材」という言葉
CQ5を一般患者向けに読み解くうえで、見落としたくないのがガイドラインの結論部分です。ガイドラインは、LED・低出力レーザーには発毛効果について有用性を示す十分な根拠があり、副作用も比較的軽微だと評価しています。そのうえで、適切な機材を使用して行うことを勧めています。つまり、CQ5のメッセージは、「LEDなら何でもよい」ではなく、「一定の条件で行われたLED・低出力レーザー治療には、発毛効果を支持する臨床試験がある」というものです。この違いは、家庭用機器や自由診療の治療メニューを比較するときに特に重要です。
CQ5から分かること―薬以外にも医学的根拠のあるAGA治療はある
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ5では、LEDおよび低出力レーザー照射:推奨度Bと評価されています。男性型脱毛症では複数のランダム化比較試験があり、代表的な655nm・週3回・26週間の試験では、レーザー群で19.8本/cm²の毛髪増加が確認されました。女性型脱毛症でも、635~655nm付近の機器を使った試験で、対照群を上回る成長期毛の増加が示されています。副作用としては皮膚の乾燥、かゆみ、圧痛、ひりつき、温熱感などが報告されていますが、ガイドラインでは全体として比較的軽微と評価しています。一方で、光源、波長、出力は研究によって異なります。したがって、患者さんが覚えておきたいのは、
「LED・低出力レーザーはガイドラインB」=「LEDと書いてある製品なら何でも発毛効果が保証されている」
ではない、ということです。治療や機器を検討するときには、広告上の「LED」「レーザー」「光発毛」という名称だけを見るのではなく、どの波長・出力・照射条件の機器なのか、その機器または同等条件でAGA・女性型脱毛症を対象とした臨床試験があるのかまで確認することが大切です。
※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ5を中心に一般患者向けに整理したものです。また、機器の国内認可に関する記述は2017年版ガイドライン作成時点の記載として読む必要があります。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
- CQ1 フィナステリドはAGA治療に有効?
- CQ2 デュタステリドはAGA治療に有効?
- CQ3 ミノキシジル外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
- CQ4 植毛術は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?自毛植毛と人工毛植毛の違い
- CQ5 LED・低出力レーザー照射はAGA・FAGAに有効?
- CQ6 アデノシン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ7 カルプロニウム塩化物外用は男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FAGA)に有効?
- CQ8 t-フラバノン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ9 サイトプリン・ペンタデカン外用はAGA・女性型脱毛症に有効?
- CQ10 ケトコナゾール外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?
- CQ11 かつらの着用はAGA・FAGAに有用?
- CQ12 ビマトプロスト・ラタノプロスト外用はAGA・FAGAに有効?
- CQ13 成長因子導入・細胞移植療法はAGA・FAGAに有効?
- CQ14 ミノキシジル内服はAGA・FAGAに有効?
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