「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
CQ10 ケトコナゾール外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?ガイドライン「推奨度C1」をわかりやすく解説
抗真菌薬がなぜAGA診療ガイドラインに登場する?2%ケトコナゾールの発毛研究、シャンプー・ローションの違い、頭皮環境との関係、フィナステリドとの併用まで解説します
ケトコナゾールという名前を聞くと、「AGA治療薬」というより、水虫や脂漏性皮膚炎などに使用する抗真菌薬を思い浮かべる方が多いかもしれません。ところが、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、ケトコナゾールについても独立したClinical Question(CQ)が設けられています。CQ10は、「ケトコナゾールの外用は有用か?」という問いです。ガイドラインの結論は、推奨度C1:行ってもよいです。男性型脱毛症については1件の非ランダム化比較試験と2件の症例集積研究があり、発毛効果について「有用性を示す弱い根拠」があると評価されています。一方、女性型脱毛症を対象とした臨床試験は、2017年版作成時点では実施されていませんでした。CQ3のミノキシジル外用がA、CQ6のアデノシンが男性B、CQ7~9がC1だったことを踏まえると、ケトコナゾールも「一定の可能性はあるものの、AGAの標準的な第一選択治療として十分な根拠が確立しているわけではない」という位置づけになります。
そもそもケトコナゾールとは?
ケトコナゾールは抗真菌薬です。現在、日本で承認されている2%ケトコナゾールローションの効能・効果には、足白癬・体部白癬・股部白癬、皮膚カンジダ症、癜風、脂漏性皮膚炎などが含まれています。真菌の細胞膜を構成するエルゴステロールの生合成を阻害することで、抗真菌作用を示します。 (PMDA)
つまり本来は、「AGAそのものを治療するために開発された薬」ではありません。それにもかかわらずCQ10に登場するのは、AGAの男性を対象とした研究で、毛髪の太さや成長期毛などについて改善を示唆する結果が報告されてきたためです。
抗真菌薬なのに、なぜ薄毛に関係するの?
この点はCQ10で最も興味深いところです。ケトコナゾールには頭皮の真菌、特に脂漏性皮膚炎に関係するMalassezia(マラセチア)などに対する抗真菌作用があります。現在の国内製剤でも脂漏性皮膚炎が承認された効能の一つです。 (PMDA)
一方、AGAに対する研究では、単にフケや炎症を改善するだけではなく、毛髪そのものへの影響も検討されてきました。例えば、ガイドラインが引用している研究の一つは、ケトコナゾールのAGAへの作用について抗アンドロゲン作用との関連を検討したものです。もっとも、2017年版ガイドラインは、その作用機序が確立したからC1にしたわけではありません。実際の患者を対象とした限られた臨床研究で発毛を示唆する結果があったことを評価しています。患者さん向けには、
頭皮の真菌や脂漏性皮膚炎を治療する薬としての役割と、AGAに対して発毛を補助する可能性は、分けて考える必要がある
ということになります。
2%ケトコナゾールシャンプーを21か月使用した研究
CQ10で最も重要な研究の一つが、男性27人を対象とした21か月間の非ランダム化比較試験です。この研究では、2%ケトコナゾールシャンプーと、市販シャンプーが比較されました。評価に使われたのは「pilary index(PI)」という指標です。これは、成長期毛の割合 × 平均毛髪直径によって計算されます。つまり単純な「髪の本数」ではなく、どのくらいの毛が成長期にあるか1本1本の毛がどのくらい太いかを合わせて評価する指標です。
結果はどうだった?
2%ケトコナゾール群では、PIが使用開始6か月後から増加し、15か月目以降はほぼ一定になりました。一方、対照となった12人では、PIは時間の経過とともに徐々に低下していました。患者さん向けに言い換えると、ケトコナゾールを使用した群では、成長期の毛髪と毛の太さを組み合わせた指標が改善したのに対し、通常のシャンプー群では徐々に低下したという結果です。AGAでみられる毛髪の軟毛化に対して、何らかの改善作用がある可能性を示すデータといえます。
「6か月から改善」は、6か月使えば必ず効くという意味?
いいえ。この研究では6か月頃からPIの増加が観察されたということであって、「すべてのAGA患者が6か月で発毛する」という意味ではありません。また、対象者は27人と小規模で、無作為化された大規模試験でもありません。このためガイドラインも「有効性が十分に確立している」とはせず、有用性を示す弱い根拠と評価しています。
2%ケトコナゾールローションでは「6人中2人に著明な発毛」
別の研究では、男性6人に2%ケトコナゾールローションを10~12か月間使用しました。皮膚科医による評価では、6人中2人に著明な発毛が認められました。発毛例が確認されたこと自体は興味深い結果です。ただし、対象はわずか6人です。したがって、「3人に1人は著明に発毛する」と一般化できる研究ではありません。症例数が非常に少なく、対照群を設定した大規模試験ではないためです。
17人・6か月の研究でも改善を確認
さらに、男性17人に2%ケトコナゾールローションを6か月間使用した研究があります。
治療開始前の脱毛程度は、
高度:10人
中等度:7人
でした。6か月後には、
高度:1人
中等度:12人
軽度:4人
となり、全体として脱毛程度の改善が確認されました。つまり、もともと「高度」と判定されていた患者が大きく減少しています。ただし、この研究についても症例数が17人と少なく、プラセボを設定した大規模RCTではありません。
研究結果があるのに、なぜC1なの?
これまでの結果だけを見ると、「結構効いているのでは?」と感じるかもしれません。しかし2017年版ガイドラインで確認されたAGA研究は、
非ランダム化比較試験1件
症例集積研究2件
が中心です。ミノキシジル外用のように、多数のランダム化比較試験やシステマティックレビューによって再現性が確認されているわけではありません。推奨度C1は、
「行ってもよい」
という評価です。したがってCQ10は、
AGA改善を示唆する臨床結果はある。しかし、標準治療として強く勧めるには研究の質と量が不足している
と理解するとよいでしょう。
フィナステリドと一緒に使えばもっと効く?
これについてもCQ10で研究されています。男性10人を対象として12か月間、フィナステリド1mg/日のみと、フィナステリド1mg/日+2%ケトコナゾールシャンプーを比較した非ランダム化比較試験があります。3人の皮膚科医が毛髪成長や脱毛の程度を5段階で評価しましたが、フィナステリド単独群とケトコナゾール併用群の間に有意差は認められませんでした。
では、フィナステリドと併用する意味はない?
そこまで断定することもできません。この研究はわずか10人を対象とした小規模研究です。「有意差がなかった」という結果は、「併用しても絶対に効果がないことが証明された」という意味ではありません。一方で、「ケトコナゾールを追加するとフィナステリドの発毛効果が明らかに高くなる」ということも、この研究では証明できませんでした。したがって、「フィナステリド+ケトコナゾールが最強」といった単純な説明には根拠が不足しています。
ミノキシジル外用と同じ位置づけ?
違います。2017年版ガイドラインでは、
| 外用治療 | 推奨度 |
|---|---|
| ミノキシジル | A |
| アデノシン | B(男性)/C1(女性) |
| カルプロニウム塩化物 | C1 |
| t-フラバノン | C1 |
| サイトプリン・ペンタデカン | C1 |
| ケトコナゾール | C1 |
となっています。したがって、「ケトコナゾールも外用薬だからミノキシジルと同程度」とは考えられません。ミノキシジル外用には、男性AGA・女性型脱毛症について多数の臨床試験があり、ガイドラインはA=「行うよう強く勧める」としています。ケトコナゾールは、あくまで補助的に検討できるC1の治療です。
フケや脂漏性皮膚炎があるAGA患者には有用?
ここでは2つの目的を分けて考える必要があります。ケトコナゾール外用には、現在日本で脂漏性皮膚炎そのものに対する承認があります。2%ローションについては、脂漏性皮膚炎に1日2回患部へ塗布する用法が承認されています。 (PMDA)
一方、AGAに対する発毛目的の使用は別問題です。したがって、AGA患者に脂漏性皮膚炎が併存している場合には、脂漏性皮膚炎を治療する目的と、AGAに対する発毛効果を期待する目的を混同しないことが重要です。脂漏性皮膚炎が改善して頭皮状態が良くなったとしても、それだけでAGAの原因である毛包のミニチュア化が治療されたことにはなりません。
「頭皮環境を整えればAGAが治る」は正しい?
AGAには、男性ホルモンの一種であるDHTなどによって毛周期が短縮し、毛髪が細く短くなる仕組みがあります。そのため、
皮脂を減らす
フケを減らす
頭皮を清潔にする
真菌を減らす
だけでAGAそのものが治るわけではありません。もちろん、脂漏性皮膚炎などの頭皮疾患があれば適切に治療することは重要です。しかし、「頭皮環境改善=AGA治療そのもの」と考えてしまうと、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなど、より強い根拠を持つ治療との違いが分からなくなります。
ケトコナゾールはDHTを抑える薬?
フィナステリドやデュタステリドと同じ作用ではありません。フィナステリド・デュタステリドは5α還元酵素を阻害し、DHTの産生を減少させる薬です。一方、日本で承認されているケトコナゾール外用剤の主な薬理作用は抗真菌作用です。 (PMDA)
ケトコナゾールのAGAへの作用について抗アンドロゲン作用との関連を検討した研究はありますが、それをもって、「外用ケトコナゾールはフィナステリドと同じようにDHTを抑えるAGA治療薬」と考えることはできません。ガイドライン上の評価もフィナステリドA、ケトコナゾールC1と明確に異なります。
女性型脱毛症にも使える?
CQ10の推奨度自体はC1ですが、女性については重要な注意点があります。2017年版ガイドラインでは、女性型脱毛症に対するケトコナゾールの臨床試験は実施されていない
としています。つまり、「女性についても発毛効果が臨床試験で確認されているからC1」ではありません。ガイドラインは、女性については有効性を示す根拠が不足しているものの、副作用が軽微である点を考慮して同じくC1=行ってもよいとしました。
女性のC1と男性のC1は、根拠の中身が違う
この点はCQ8などと共通しています。男性AGAについては、実際にケトコナゾールを使用して毛髪状態が改善した臨床研究があるためC1です。女性型脱毛症については、直接的な臨床試験が不足しているものの、安全性などを考慮してC1です。したがって、男性も女性もC1だから、男女とも同じ程度に発毛効果が証明されているわけではありません。
日本ではAGA治療薬として承認されている?
いいえ。2017年版ガイドラインには明確に、国内ではケトコナゾールは育毛剤として認可されていないと記載されています。そして2026年現在の国内2%ケトコナゾールローションの添付文書を確認しても、承認されている効能は白癬、皮膚カンジダ症、癜風、脂漏性皮膚炎であり、AGA・男性型脱毛症・発毛は効能に含まれていません。 (PMDA)
したがって、
「ガイドラインに載っている」ことと「AGA治療薬として国内承認されている」ことは別
です。これはCQ10を理解するうえで非常に重要です。
2%ケトコナゾール「シャンプー」と「ローション」は同じ?
同じ有効成分でも、製剤は区別する必要があります。CQ10の研究では、2%ケトコナゾールシャンプーを使用した研究と、2%ケトコナゾールローションを使用した研究の両方があります。したがって、一つの製剤の研究結果を、濃度や使用方法が異なるすべてのケトコナゾール製品へそのまま当てはめることはできません。「ケトコナゾール2%」という濃度だけでなく、
シャンプーなのか
ローションなのか
頭皮にどのくらい接触するのか
どの程度の頻度で使用するのか
なども治療条件になります。
ケトコナゾール外用の副作用は?
現在の国内2%ローションの添付文書では、皮膚症状として、刺激感、かゆみ、接触皮膚炎、紅斑、水疱、灼熱感、皮膚剥脱、乾燥などが報告されています。脂漏性皮膚炎を対象とした国内第III相試験では、ローション69例中11例(15.9%)に副作用が認められ、刺激感が最も多く報告されました。 (PMDA) したがって外用薬だからといって、「頭皮に塗るだけなので副作用はゼロ」ではありません。強い赤み、かゆみ、刺激などが生じた場合には、使用を続けるべきか医師・薬剤師に相談する必要があります。
ケトコナゾールだけでAGA治療をしてよい?
2017年版ガイドラインの推奨度を見る限り、ケトコナゾールを標準的なAGA治療の代わりとして位置づけることは適切ではありません。男性AGAでは、
フィナステリド:A
デュタステリド:A
ミノキシジル外用:A
です。ケトコナゾールはC1です。したがって、「AGAを医学的根拠の強い治療で治療したい」という場合には、まずA評価の治療などを検討し、そのうえで患者さんの状態に応じて補助的な治療を考えるという読み方が自然です。
頭皮に脂漏性皮膚炎がある場合は話が別
ただし、AGAに脂漏性皮膚炎が併存している場合には、ケトコナゾールには別の治療目的があります。現在の国内添付文書で脂漏性皮膚炎は正式な効能です。 (PMDA) この場合、AGAに対してはAGAの治療を行う一方で、脂漏性皮膚炎には脂漏性皮膚炎の治療を行うという考え方ができます。一人の患者さんに複数の頭皮・毛髪の問題が同時に存在することは珍しくありません。そのため、「AGAだからケトコナゾールを使う」という一面的な判断より、AGA以外の頭皮疾患が併存していないかを見ることにも意味があります。
「AGAにもフケにも効くシャンプー」と広告されていたら?
慎重に内容を確認する必要があります。ケトコナゾールには脂漏性皮膚炎などに対する明確な抗真菌作用があります。そしてAGAへの発毛効果についても弱いながら臨床的根拠があります。しかし、脂漏性皮膚炎への承認された効果と、AGAに対するC1の研究結果を一つにまとめて、「AGAを治療することが承認されたシャンプー」のように理解するのは適切ではありません。患者さん側では、「何について承認された薬なのか」と「ガイドラインでどの程度の発毛データがあるのか」を分けて考えることが大切です。
CQ10についてよくある疑問
| よくある疑問 | 患者さん向けの答え |
|---|---|
| ケトコナゾールはAGAに使える? | C1=行ってもよい |
| AGA治療薬なの? | 国内ではAGA・発毛目的では承認されていない |
| 本来は何の薬? | 抗真菌薬。脂漏性皮膚炎などに使用される |
| 男性AGAの研究はある? | 非ランダム化比較試験1件、症例集積研究2件 |
| どの濃度が研究された? | 主に2% |
| シャンプーで研究されている? | 2%シャンプーを21か月使用した研究がある |
| ローションでも研究された? | 2%ローションの6~12か月程度の研究がある |
| フィナステリドと併用するとさらに効く? | 10人の研究では単独群との有意差なし |
| 女性にも発毛効果が証明されている? | 2017年版では女性型脱毛症の臨床試験なし |
| ミノキシジルの代わりになる? | ガイドライン上の位置づけは異なる。ミノキシジルはA |
| フケが減ればAGAも治る? | 別問題。脂漏性皮膚炎治療とAGA治療は分けて考える |
| 副作用はない? | 刺激感、かゆみ、接触皮膚炎、赤みなどがあり得る |
CQ10から分かること―ケトコナゾールは「AGAへの可能性がある抗真菌薬」だが、標準治療とは位置づけが異なる
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ10では、
ケトコナゾール外用:推奨度C1=行ってもよい
とされています。男性AGAでは、2%ケトコナゾールシャンプーを21か月使用した研究で、成長期毛率と毛髪径から算出するPIが6か月後から増加し、15か月以降にプラトーとなりました。2%ローションについても、6人中2人の著明な発毛や、17人の脱毛程度の改善が報告されています。一方で研究規模は小さく、大規模なランダム化比較試験が十分に蓄積されているわけではありません。そのためガイドラインは、「有用性を示す弱い根拠」としてC1にとどめています。女性型脱毛症については直接的な臨床試験がなく、根拠はさらに限定的です。また、ケトコナゾールの現在の国内承認は抗真菌薬としてのもので、脂漏性皮膚炎などは適応に含まれますが、AGAの発毛治療は承認された効能ではありません。 (PMDA)
したがって、CQ10を患者さん向けに一言で整理するなら、「ケトコナゾールには男性AGAの毛髪状態を改善する可能性を示した研究があり、ガイドラインでも使用してよいとされている。ただし、本来は抗真菌薬であり、AGAの標準治療としてミノキシジルやフィナステリドと同じ位置づけではない」となります。特に、「フケや脂漏性皮膚炎を改善すること」と「AGAそのものを治療すること」を区別することが、ケトコナゾールを正しく理解するポイントです。
※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ10を中心に一般患者向けに整理しています。国内での現在の承認内容については、2026年1月改訂のPMDA掲載ケトコナゾールローション2%添付文書も確認しています。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
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