「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
CQ8 t-フラバノン外用はAGA(男性型脱毛症)・FAGA(女性型脱毛症)に有効?ガイドライン「推奨度C1」をわかりやすく解説
t-フラバノンはどのように毛髪へ働く?男性AGAで確認された毛径・抜け毛・改善率のデータと、女性では研究が不足しているのにC1とされた理由を解説します
AGA(男性型脱毛症)の外用成分には、ミノキシジル、アデノシン、カルプロニウム塩化物などがあります。その中で、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」がCQ8として取り上げているのがt-フラバノンです。CQ8は、「t-フラバノンの外用は有用か?」というClinical Questionです。ガイドラインの結論は、推奨度C1:行ってもよいです。男性型脱毛症については2件の非ランダム化比較試験と1件のランダム化比較試験がある一方、女性型脱毛症を対象とした臨床試験は当時実施されていませんでした。つまり、t-フラバノンは「効果がない」と評価された成分ではありません。ただし、CQ3のミノキシジル外用やCQ6のアデノシン外用と比べると、有効性を裏付ける臨床研究の量と確実性がまだ限定的という位置づけです。
t-フラバノンとは?
t-フラバノンは、正式にはtrans-3,4′-Dimethyl-3-hydroxyflavanoneと呼ばれる化合物で、フラボノイドの一種であるアスチルビンをもとに開発された誘導体です。毛髪研究では、毛髪の成長に関係するシグナルへの作用や、毛髪が毛包に保持される力、いわゆる「毛髪のアンカー力」に関係する可能性が研究されています。2016年のランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、t-フラバノンによってAGAの改善と毛髪の保持力の増強が確認され、培養毛包では細胞同士の接着に関係するデスモグレインの発現増加も報告されました。(PubMed) 患者さん向けには、「抜け毛を減らし、AGAで弱くなった毛髪をよりしっかり成長・保持させる方向への作用が研究されている外用成分」と考えると分かりやすいでしょう。ただし、フィナステリドのようにDHTを直接抑える薬ではありません。
なぜガイドラインではC1なの?
2017年版ガイドラインの推奨度では、
A=行うよう強く勧める
B=行うよう勧める
C1=行ってもよい
とされています。C1は、AやBより臨床的な根拠が弱い場合などに設定される評価です。t-フラバノンの場合、男性AGAについて有効性を示す研究は存在します。しかし2017年版作成時点では、
非ランダム化比較試験:2件
ランダム化比較試験:1件
という限られた研究数でした。さらに女性型脱毛症については臨床試験自体がありませんでした。そのため、
効果を示唆するデータはあるが、ミノキシジルのように多数の大規模臨床試験が積み重なっているわけではない
という判断からC1になっています。
14人・6か月の研究では「毛が太くなった」
ガイドラインで紹介されている最初の研究は、男性14人を対象としてt-フラバノン配合育毛剤を6か月間使用した非ランダム化比較試験です。この研究では毛髪径が増加し、特に新しく生えてきた毛の平均毛径が治療開始時より約20%増加しました。また、外用開始4か月後と6か月後には抜け毛数も有意に減少し、プラセボでは変化が認められませんでした。AGAでは、毛髪が急にゼロになるのではなく、
太く長い毛
→ 徐々に細くなる
→ 短い毛になる
→ さらに目立たなくなる
という「軟毛化」が進みます。そのため、新しく生えてくる毛の直径が太くなったという結果は、AGA治療を評価するうえで意味のある指標です。
「毛が太くなる」と「毛の本数が増える」は違う
ここは患者さんが混同しやすいポイントです。
薄毛の見た目は、
毛髪の本数
毛の太さ
毛の長さ
成長期の割合
などによって変わります。
例えば毛髪の本数がほぼ同じでも、1本1本が太くなれば頭皮は透けにくくなります。したがって、t-フラバノンの研究で「毛径が約20%増えた」という結果を、「髪の本数が20%増えた」と読み替えることはできません。「本数」と「太さ」は別の評価項目です。
197人の研究では改善率53.1%
次にガイドラインでは、男性197人を対象として、30週間使用した非ランダム化比較試験を紹介しています。結果は次のとおりでした。
| 使用した製剤 | 「軽度改善以上」の割合 |
|---|---|
| t-フラバノン配合育毛剤 | 53.1% |
| 市販育毛剤(成分不明) | 34.8% |
| プラセボ | 17.9% |
t-フラバノン配合群と市販育毛剤群は、プラセボ群より有意な改善効果を示しました。また、直径40μm以上の硬毛数はt-フラバノン群と市販育毛剤群で増加し、プラセボ群では減少していました。この結果からも、t-フラバノンには男性AGAの毛髪状態を改善する可能性が示されています。
「53.1%に効いた」と考えてよい?
少し注意が必要です。53.1%という数字は、この研究で設定された評価基準において「軽度改善以上」と判定された割合です。したがって、53.1%の人に大量の髪が生えたという意味ではありません。また、この研究はランダム化比較試験ではなく非ランダム化比較試験です。研究として価値はありますが、治療群の条件を無作為に割り付けるRCTより、さまざまな偏りが結果へ影響しやすくなります。これもガイドラインがC1という慎重な評価をしている理由の一つです。
0.1%と0.3%を比較したランダム化試験では?
CQ8で最もエビデンスレベルの高い研究が、男性77人を対象として30週間行われたランダム化比較試験です。使用したのは、
0.1% t-フラバノン
0.3% t-フラバノン
プラセボ
でした。「軽度改善以上」の割合は、
| グループ | 軽度改善以上 |
|---|---|
| プラセボ | 約40% |
| 0.1% t-フラバノン | 約75% |
| 0.3% t-フラバノン | 約70% |
と報告されています。0.1%、0.3%のいずれもプラセボより良好な結果でした。
0.3%より0.1%のほうが効くの?
この数字だけを見ると、
0.1%:75%
0.3%:70%
なので、「薄い0.1%のほうが効いた」と思うかもしれません。しかし、そのように結論づけることはできません。人数の限られた試験ですし、75%と70%という数字だけから濃度による優劣を判断することはできないからです。むしろ、この研究から重要なのは、0.1%と0.3%の両方でAGA改善を支持する結果が得られたという点です。「濃度が3倍なら効果も3倍」という関係ではないことも分かります。
プラセボでも約40%改善しているのはなぜ?
この試験では、プラセボ群でも「軽度改善以上」が約40%ありました。一見すると高い数字です。薄毛治療の臨床試験では、写真による評価、患者自身の評価、基剤の作用、自然変動、評価方法などが結果へ影響する場合があります。また、2016年に公表されたこの試験では、全群で血行促進成分を含むローションが使用されており、研究者自身も対照群にみられた一定の改善には基剤側の影響が考えられると考察しています。(PubMed Central (PMC)) したがって、臨床試験を見るときには、「治療群で何%改善したか」だけでなく、「対照群とどのくらい違ったのか」を見ることが大切です。
t-フラバノンは「抜けにくい髪」にする?
2016年のランダム化二重盲検試験では、AGAの見た目だけでなく、毛髪を引き抜くために必要な力=hair-anchoring strength(毛髪保持力)も測定されました。0.3%t-フラバノン群では、プラセボ群より毛髪保持力が有意に高くなりました。さらに、同じ太さの毛髪同士を比較しても保持力が高かったことから、単に「毛が太くなったから抜けにくくなった」だけではない可能性が示されています。(PubMed Central (PMC)) 患者さん向けに表現するなら、
毛髪そのものを太くするだけでなく、毛包の中で毛を保持する仕組みにも働きかける可能性が研究されている
ということになります。
デスモグレインとは?
この研究では、作用の仕組みを調べるため、培養したヒト毛包についても実験しています。その結果、t-フラバノンを加えた毛包では、デスモグレイン1・2・3というタンパク質の発現が増加しました。(PubMed Central (PMC)) デスモグレインは、細胞同士を結びつける構造に関係するタンパク質です。研究者らは、この変化によって毛包内部の細胞同士の結合が強くなり、毛髪を保持する力が高まる可能性を示しています。ただし、これは作用機序を説明するための研究結果であり、「デスモグレインが増えれば必ずAGAが改善する」と臨床的に確定したわけではありません。
TGF-β2を抑える作用も研究されている
t-フラバノンについては、毛髪の成長を抑制する方向に働くTGF-β2との関係も研究されています。基礎研究では、t-フラバノンがTGF-β2の活性化を抑制する可能性が報告されています。TGF-β2は毛周期を成長期から退行期へ移行させることに関係すると考えられているため、その作用を抑えることで毛髪成長に有利に働く可能性があります。(PubMed) ただし、ここも患者さん向けには、「考えられている作用機序の一つ」として理解するのが適切です。
フィナステリドの代わりになる?
同じAGA治療でも、作用する場所が異なります。フィナステリドはII型5α還元酵素を阻害し、AGAの中心的な原因の一つであるDHT生成を抑える治療です。一方、t-フラバノンについて研究されているのは、毛髪成長、毛径、抜け毛、毛髪保持力などへの作用です。2017年版ガイドライン上でも、
フィナステリド:A
t-フラバノン:C1
と評価が異なります。したがって、「t-フラバノンを塗っていればフィナステリドと同じDHT対策になる」とは考えられません。
ミノキシジルとの違いは?
ミノキシジル外用はCQ3で推奨度Aです。男性AGA・女性型脱毛症を対象とした多数のランダム化比較試験やシステマティックレビューによって、発毛効果が確認されています。一方、t-フラバノンはC1です。これは必ずしも「ミノキシジルのほうが何倍も発毛する」というランキングではなく、エビデンスの確実性が大きく異なるという意味があります。2017年版を並べると、外用治療の位置づけは次のようになります。
| 外用治療 | 推奨度 |
|---|---|
| ミノキシジル | A |
| アデノシン | B(男性)/C1(女性) |
| カルプロニウム塩化物 | C1 |
| t-フラバノン | C1 |
そのため男性AGAにおいて、t-フラバノンが標準的なA評価治療より優先されるとガイドラインが示しているわけではありません。
t-フラバノンはどのくらい使えばよい?
CQ8で評価された研究は、
6か月
30週間
など、いずれも数か月単位です。したがって、「1週間使ったけれど抜け毛が変わらない」という期間では、研究と同じ条件で効果を評価したことにはなりません。毛髪の変化はゆっくり起こるため、外用治療も一定期間続けて経過を見る必要があります。ただし、実際の製品の使用量・使用回数については、それぞれの製品に定められた方法に従うことが必要です。
女性型脱毛症には効果がある?
ここはCQ8で特に注意が必要です。2017年版ガイドラインでは、女性型脱毛症に対するt-フラバノンの臨床試験は実施されておらず、有効性を示す信頼性の高い報告はないとしています。つまり男性AGAについては比較試験がありますが、女性については同じだけのデータがありません。
女性の研究がないのに、なぜ女性もC1なの?
ガイドラインは、女性型脱毛症について有効性を示す根拠がまだ不足していると明記しています。それでも副作用が軽微である点も考慮して、「行ってもよい」C1としています。この部分はCQ8を読むうえで非常に重要です。C1という同じアルファベットでも、
男性:弱いながら有効性を示す臨床的根拠がある
女性:有効性の根拠は不足しているが、安全性などを考慮してC1
と、評価に至った背景が異なります。したがって、「男性も女性もC1だから、男女で同程度に効果が証明されている」という意味ではありません。
C1だから「効果が証明された育毛成分」と言い切ってよい?
この表現も慎重に考える必要があります。男性AGAについては、ランダム化比較試験を含めて有効性を示すデータがあります。一方、ガイドラインの結論そのものは、「男性型脱毛症に対する発毛効果について、有効性を示す弱い根拠が存在する」という評価です。したがって患者さん向けには、「一定の臨床データがあり、使用してもよいとされている」と説明するのが適切です。「AGAへの効果が確立している」「標準治療と同等」とまで広げると、ガイドラインの評価以上の表現になってしまいます。
CQ8について知っておきたいポイント
| 疑問 | 患者さん向けの答え |
|---|---|
| t-フラバノンはAGAに使える? | C1=行ってもよい |
| 男性で研究されている? | 非ランダム化比較試験2件、RCT1件 |
| 毛髪は太くなる? | 新生毛の平均毛径が約20%増えた小規模研究がある |
| 抜け毛は減る? | 4か月・6か月で有意な減少を示した研究がある |
| 改善率は? | 197人の研究では軽度改善以上53.1% |
| 0.1%と0.3%では? | 77人のRCTでそれぞれ約75%、約70%が軽度改善以上 |
| 濃いほど効く? | そのような単純な濃度依存性は示されていない |
| ミノキシジルと同等? | そのようには評価されていない。ミノキシジルはA |
| 女性にも効果が証明されている? | 2017年版では女性対象の臨床試験なし |
| 女性もC1なのはなぜ? | 有効性の根拠は不足しているが、副作用が軽微な点を考慮 |
CQ8から分かること―t-フラバノンは「有望だが、エビデンスはまだ限定的」
日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ8では、
t-フラバノン外用:推奨度C1=行ってもよい
とされています。男性AGAについては、6か月の小規模研究で新生毛の平均毛径が約20%増加し、抜け毛も減少しました。また197人の研究では軽度改善以上が53.1%、77人のランダム化比較試験では0.1%群で約75%、0.3%群で約70%が軽度改善以上と評価されています。さらに、その後の研究では、t-フラバノンが毛髪を毛包内に保持する力を高める可能性も示されています。(PubMed) 一方、2017年版作成時点で臨床研究は3件と限られており、女性型脱毛症を対象とした臨床試験もありませんでした。そのため患者さん向けにCQ8を一言で表現するなら、「男性AGAでは毛の太さや抜け毛、見た目の改善を示す研究があるため使用してもよい。ただし、標準治療と同程度に十分な医学的根拠が蓄積されているわけではない」という位置づけです。AGA治療では「育毛成分が入っている」というだけで判断するのではなく、その成分についてどの程度の人数で、どのような比較試験が行われ、ガイドラインではどの推奨度になっているのかまで確認すると、治療や育毛製品をより客観的に比較できます。
※本稿は、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」のCQ8を中心に一般患者向けに整理したものです。同ガイドラインは、男性型脱毛症に対するt-フラバノンの発毛効果について「有効性を示す弱い根拠」があるとしてC1と評価しています。
「知って選ぶ。薄毛治療のエビデンス」
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」CQ1〜14を、患者さん向けにわかりやすく読み解く
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