シアリスと併用禁忌となるニトログリセリンついて
シアリス(タダラフィル)と併用禁忌となるニトログリセリンについて、作用機序・危険性・臨床上の注意点(いつまで避けるか/もし胸痛が出たらどうするか)を短くまとまて解説します。
ニトログリセリンとは
ニトログリセリンは有機硝酸塩(nitrate)に属する硝酸薬で、狭心症(胸痛)の即効薬として広く使われます。舌下錠(スプレー/錠剤)、貼付(パッチ)、点滴など複数の投与形態があります。
作用機序(なぜ血圧が下がるのか)
ニトログリセリンは体内で一酸化窒素(NO)を放出し、平滑筋内のグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やします。cGMPが増えると血管平滑筋が弛緩し血管拡張が起こり、結果として血圧が低下します。
PDE5阻害薬(シアリス=タダラフィル)との“危険な相乗効果”
PDE5阻害薬はcGMPを分解する酵素(PDE5)を抑えるため、cGMPを高めたままにする作用があります。したがって:
- ニトログリセリンがcGMPを増やす → シアリスがcGMPの分解を抑える
→ 両者が合わさるとcGMPが過剰になり、強い血管拡張と重度の低血圧(致命的になることも)を引き起こすリスクがあります。めまい・失神・心血管ショックに至る可能性があるため、併用は禁忌です。
「いつまで避けるべきか」— 臨床的な目安
- シアリス(タダラフィル)は血中半減期が比較的長く(約17時間)で作用も長く残ります。
- 臨床試験・ガイドラインでは、タダラフィル服用後は少なくとも48時間は硝酸薬の投与を避けることが一般的な目安とされています。
- ただし製剤や個々の状況で推奨は変わるため、製品添付文書では「硝酸薬を使用している患者にはシアリス投与は禁忌」と明記されています。緊急時の対応についても添付文書で注意が促されています。
臨床上の実践的アドバイス
- 硝酸薬を常用している(パッチや内服含む)場合は、シアリスを絶対に使わないでください。(禁忌)
- もしシアリスを服用していて胸痛(狭心症)が出たら:
- 服用を受けたこと(PDE5阻害薬を飲んだこと)をまず救急隊員や医師に必ず伝えてください。
- 医療現場ではニトログリセリン投与が通常の心筋虚血治療ですが、PDE5阻害薬との併用では重度低血圧リスクが高くなるため、医師は投薬の是非を慎重に判断します(必要なら別の処置や血行動態の監視下での処置になる)。
ニトログリセリン自体の主な副作用・禁忌
- 副作用:低血圧、頭痛、めまい、顔面紅潮、失神など。
- 禁忌・注意:重度の貧血、急性心膜炎や心筋梗塞後の特定状態、脳圧上昇疑いなどでは注意が必要。PDE5阻害薬との併用は絶対禁忌。
要点
- ニトログリセリンはNOを介してcGMPを増やし血管を拡張する薬。シアリスはcGMPを分解させないため、両者は相乗して重度の低血圧を引き起こす。そのため併用は禁忌です。
- 臨床上の目安としてはタダラフィル服用後48時間は硝酸薬投与が問題になりうるが、添付文書では硝酸薬使用中の患者への投与自体が禁忌とされています。
