
医師が書いていない医療記事は「医師監修」といえるのか
医療記事の執筆者と監修者が別々であることは、珍しいことではありません。ライターや編集者が原稿を書き、医師が医学的な記述や根拠を確認する形でも、実際に確認や修正を行っていれば「医師監修」と説明できます。
ただし、医師の名前が掲載されているだけでは、記事のどの範囲を確認したのか、最終原稿まで目を通したのかはわかりません。「医師が書いていないこと」だけでは監修の有無は判断できず、実際に何を確認したかが重要です。
執筆と監修は、別の役割
執筆者は記事の文章や構成を作ります。監修者は、専門的な立場から内容を確認し、必要に応じて修正や補足を行います。たとえば、次のような作業が考えられます。
- 医学的な記述に誤りがないか確認する
- 根拠として示された資料や研究を確認する
- 誤解を招く表現や、重要な注意点の抜けを指摘する
- 修正後の原稿を読み、掲載内容を確認する
医師が記事を一から書く場合は「執筆者」として、別の人が書いた原稿を確認する場合は「監修者」として関わることになります。監修者と執筆者が別であること自体は、監修を否定する理由にはなりません。
実際に、記事執筆は担当せず、医学的な事実確認や根拠の確認、修正指示を行う「医療記事監修」の募集が公開されています。これは、執筆と監修を分ける制作方法が実在する例です。ただし、募集があることは、個々の記事で監修が実施された証明にはなりません。
「名前が載っている」だけでは、確認内容はわからない
「医師監修」と表示されていても、読者からは、たとえば次のことが見えない場合があります。
- 記事全体を確認したのか、一部だけを確認したのか
- 引用資料や研究の根拠まで確認したのか
- 公開前の最終原稿を確認したのか
- 指摘した修正が、実際に記事へ反映されたのか
- 公開後に内容が変更された際、再確認が行われたのか
とくに大切なのは、実際に公開された原稿を確認しているかです。監修者が一度原稿を見ていても、その後に内容が追加・変更されていれば、掲載されている記事が監修時の内容と異なることがあります。
診療科が記事のテーマと関係しているか
医師免許があることと、あらゆる診療分野の記事を同じ深さで監修できることは別です。医師の専門領域と記事のテーマが大きく離れている場合、読者は「この医師は、この記事の内容を確認するのに適した専門性を持っているのか」を考える必要があります。
たとえば、皮膚科の治療記事であれば、皮膚科の診療経験や専門性は内容確認の参考になります。一方、記事が薬の使い方や全身への影響、別の診療科での診断・治療まで踏み込むなら、皮膚科医の確認だけで十分とは限りません。記事のテーマと、監修者が実際に確認できる範囲が合っているかが大切です。
ただし、診療科が一致しないという理由だけで、直ちに監修が無効になるわけではありません。一般的な健康情報であれば、幅広い診療経験を持つ医師が適切に確認できる場合もあります。大切なのは、監修者の肩書きだけで判断せず、記事のどの主張を、どの専門性に基づいて確認したのかが説明されていることです。
「専門医監修」と表示する場合は、資格名や認定団体だけでなく、その専門領域が記事の中心テーマとどう関係するのかも確認したい点です。監修者の専門分野が記事と離れているのに、その違いが説明されず、読者に該当分野の専門家が確認したと思わせる表示になっていれば、専門性について誤解を招く可能性があります。
競合する医療機関を評価・監修する場合
監修医が、記事で評価されている医療機関の競合施設に勤務している場合や、自身の勤務先が比較対象に含まれている場合は、専門性に加えて利益相反も確認する必要があります。
競合医療機関を評価すること自体が、常に不適切というわけではありません。診療内容、費用、診療時間、アクセスなどを共通の基準で整理し、根拠と調査時点を示した比較であれば、読者の情報収集に役立つこともあります。ただし、監修医の勤務先や経済的な関係によって、評価の選び方や表現に影響が出る可能性があります。日本医師会が紹介する世界医師会の倫理綱領も、専門的判断に影響する利益相反を認識し、避けるか、避けられない場合は申告して管理する考え方を示しています。
そのため、比較記事では、少なくとも次の点が見えることが望まれます。
- 監修医の勤務先・所属と、比較対象との関係
- 医療機関を選んだ基準と、評価項目
- 情報源と調査時点
- 広告料、紹介料、掲載料などの有無
- 評価や順位が、契約や広告出稿によって変わるかどうか
特に、記事の最後で特定の医療機関へ予約や相談を誘導している場合、比較の中立性だけでなく、その記事が受診を促す広告として機能していないかも検討が必要です。厚生労働省の医療広告等ガイドラインは、医療機関が他院より優れていると示す比較優良広告を禁止し、広告代理店やアフィリエイターなども規制対象になり得るとしています。ただし、第三者が作るすべての比較記事が一律に医療広告になるわけではなく、記事の目的や構成、特定の医療機関への誘導などを含めて判断されます。
読者が確かめたいのは、誰が評価し、どの基準を使い、どのような利害関係があるのかが開示され、評価を後から検証できるかを見ることです。
監修の実態を確かめるポイント
監修の表示を見かけたら、記事の末尾や運営者情報で、次の点を確認してみましょう。
- 執筆者と監修者が分けて記載されているか
- 監修者の氏名、医師資格、専門領域がわかるか
- どの部分を監修したか、作業範囲が説明されているか
- 監修日と記事の公開日・更新日がわかるか
- 引用資料や医学的な根拠が示されているか
- 記事の内容が監修者の専門領域と合っているか
情報が書かれていないからといって、監修がなかったとは断定できません。ただし、確認内容が説明されていなければ、表示だけから監修の深さを判断することもできません。
報酬を受けた監修は、依頼関係も確認する
企業やメディアから依頼を受け、報酬を得て記事の監修やコメントを行う場合もあります。報酬があることだけで、直ちに監修が不適切になるわけではありません。依頼された業務として、医学的な確認を適切に行っている場合もあります。
一方で、広告主から依頼された専門家のコメントが、読者には利害関係のない第三者の意見に見えることがあります。消費者庁は、専門家に報酬を支払ってコメントを依頼し、それをアフィリエイトサイトに掲載する例について、事業者の表示であることがわかる説明をコメントの近くに置く方法を示しています。広告や依頼関係が読者に伝わる表示になっているかも、確認したい点です。
医療機関への誘導がある記事は、記事の目的にも注目
健康情報の記事でも、特定の医療機関の予約や相談につながる構成になっていることがあります。厚生労働省のガイドラインでは、医療機関への受診を誘う意図や医療機関を特定できることなどから、医療広告に当たるかを判断します。記事形式であっても、実質的に受診を誘う記事風広告として扱われる場合があり、広告代理店やアフィリエイターなども規制の対象になり得ます。
そのため、「医師監修」という表示とあわせて、記事の運営者、広告主、紹介先、予約リンクの有無も見ておくと、記事がどのような目的で掲載されているかを把握しやすくなります。
読者に伝わる監修表示とは
監修の実態を読者が理解できるようにするには、たとえば次のような情報が役立ちます。
執筆:〇〇
監修:〇〇医師(専門領域:〇〇)
監修範囲:医学的な記述と引用根拠を確認し、最終原稿を確認
監修日:〇年〇月〇日
依頼関係:〇〇社から依頼を受けて監修
記事によって必要な説明は異なりますが、執筆者と監修者を区別し、確認の範囲や日付、依頼関係を明らかにすると、「医師監修」が何を意味するのかを読者が判断しやすくなります。
まとめ
医師が書いていない医療記事でも、医師が実際に内容を確認し、必要な修正に関与していれば「医師監修」と説明できる場合があります。見るべきなのは、誰が執筆したかだけではありません。
監修者が何を確認し、公開された最終稿にどのように関与したのか。広告主や媒体との関係が読者に伝わっているか。その説明があるかどうかが、「医師監修」という表示を評価する手がかりになります。
「医師監修」を読み解く|医療広告と専門家表示の見極め方
- 「医師監修」とは何か?表示だけではわからない監修の範囲
- 医師が書いていない医療記事は「医師監修」といえるのか
- 医師と記事を結ぶマッチングサービス|監修業務の仕組み
- 「医師おすすめ」は誰の意見?推薦表示と広告の関係
- 「専門医監修」の専門医とは?資格名と認定団体の確認方法
- 非医療機関の医療広告|広告代理店やアフィリエイターにも規制は及ぶのか
- オウンドメディアの医療記事は広告か情報提供か|判断のポイント
- 記事風広告とは何か?中立的な記事に見せた医療広告の注意点
- 監修医に報酬が支払われているとき、読者に何を伝えるべきか
- 医師コメントは独立した意見か広告か|利益相反の見分け方
- 薬機法が禁じる「医師が効果を保証したように見える広告」
- 医療広告の比較・ランキング記事|「おすすめ」「No.1」の問題点
- 監修者の氏名や経歴はどう確認する?公開情報を調べる手順
- 最終原稿を確認しているか?実質的な監修に必要なチェック項目
- 公開後の更新も監修対象?医療情報の古さと再確認の仕組み
- 「監修済み」の表示をどう読むか|読者のためのチェックリスト
- 医療広告に問題を見つけたら|記録・相談・通報の基本
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