マレーの人間の欲求理論

マレーの人間の欲求理論は、心理学者ヘンリー・マレー(Henry Murray)が提唱した動機理論で、個人の行動を動かす内的な欲求や外的な環境要因を総合的に考慮するものです。マレーは、人間の行動を「欲求」という基本的な心理的要因から説明しようとしました。この理論は、特にTAT(主題統覚検査)という心理検査で有名です。

基本概念

マレーの理論では、人間の欲求を個人の行動を導く内的な力として定義します。この欲求は、外部からの刺激(圧力: Press)との相互作用で行動に現れると考えられています。

欲求(Needs)

    • 欲求は、行動を起こさせ、特定の目標を達成しようとする内的な動因です。
    • 一次的欲求(Primary Needs): 生理的な基本欲求(例: 食欲、睡眠欲)。
    • 二次的欲求(Secondary Needs): 心理的・社会的な欲求(例: 愛情、承認、権力)。

圧力(Press)

    • 外部環境からの刺激や状況が個人の欲求に影響を与える要因。
    • アルファ圧力: 客観的な外的状況。
    • ベータ圧力: 個人が主観的に認識した外的状況。

欲求のリスト

マレーは、心理的欲求を20以上に分類しました。このリストは、マレーの理論の中核となり、多様な人間の行動を理解する枠組みを提供します。

代表的な欲求

    1. 達成欲求(Achievement)
      • 困難な課題を克服し、高い水準で目標を達成したいという欲求。
      • 例: 新しいプロジェクトを成功させたい。
    2. 親和欲求(Affiliation)
      • 他者と関係を築き、受け入れられたいという欲求。
      • 例: 友人と良好な関係を維持したい。
    3. 権力欲求(Power)
      • 他者を支配し、影響を与えたいという欲求。
      • 例: リーダーシップを発揮したい。
    4. 承認欲求(Recognition)
      • 他者から評価され、認められたいという欲求。
      • 例: 職場で賞賛を受けたい。
    5. 保護欲求(Nurturance)
      • 他者を助け、保護したいという欲求。
      • 例: 困っている人をサポートしたい。
    6. 独立欲求(Autonomy)
      • 他者から干渉されずに、自律的に行動したいという欲求。
      • 例: 自由に意志決定をしたい。
    7. 回避欲求(Avoidance)
      • 恥や失敗を避けたいという欲求。
      • 例: リスクを取ることを避けたい。

TAT(主題統覚検査)

マレーの欲求理論は、TAT(Thematic Apperception Test)として具体化されました。これは、絵を見て物語を作る心理テストで、被験者の無意識的な欲求や圧力を明らかにするために使われます。

  • 被験者が語る物語から、特定の欲求や外部圧力がどのように行動に影響しているかを分析します。

マレーの理論の意義

    1. 個人差の強調
      • 欲求の優先順位や強さは、個人によって異なり、それが性格の違いを生み出すと考えました。
    2. 動機と環境の相互作用
      • 内的欲求と外的圧力が組み合わさって行動が生まれる点を強調しました。
    3. 心理療法や人材開発への応用
      • 欲求理論は、心理療法やキャリアコンサルティングにおいて、個人の行動を理解する枠組みとして活用されています。

まとめ

マレーの欲求理論は、人間の行動を「欲求」と「圧力」の相互作用から説明するもので、個人の動機や性格を深く理解する枠組みを提供します。特に心理的欲求(愛情、達成、承認など)の重要性を強調し、日常生活や仕事、社会的関係の中での行動を分析する基礎を築きました。この理論は、現代の動機づけ研究や心理療法においても影響を与え続けています。

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